作家の悪夢

作家の悪夢

「作家の悪夢」とは、SF作家アイザック・アシモフが用いた言葉で、文学的な業績において、本来作家であった人物よりも、そうでない人物の方が後世に名を残してしまうという現象を指します。これは、メアリー・シェリーとその夫、パーシー・ビッシュ・シェリーの関係を評した言葉として知られています。

背景

1816年、18歳のメアリー・シェリーは、21歳の詩人パーシー・ビッシュ・シェリーと駆け落ちし、イギリスの詩人バイロンの別荘に滞在しました。当時、ヨーロッパは天候不順に見舞われ、彼らは外出を控えて互いに怪奇小説を創作するという遊びをしました。これが有名な「ディオダティ荘の怪奇談義」です。

当時すでに著名な詩人であったバイロンとシェリーは、この試みを途中で放棄してしまいましたが、文学的には素人であったメアリーと、バイロンの主治医であったジョン・ポリドリは、それぞれ小説を完成させました。メアリーは『フランケンシュタイン』を、ポリドリは『吸血鬼』を執筆し、1年後に発表しました。

『フランケンシュタイン』は、発表後ゴシック小説の古典として評価されるようになり、やがてSFの元祖ともみなされるようになりました。この作品は、人類の科学技術が怪物と化し、人類自身を破滅させる可能性を示唆する「フランケンシュタイン・コンプレックス」という重要なテーマを提起しました。その後、何度も映画化されるなど、様々な創作物に影響を与え、メアリー・シェリーは作家として名を残しました。

一方、夫のパーシー・ビッシュ・シェリーも著名な詩人でしたが、妻メアリーと比較すると、その知名度は低いと言わざるを得ません。

アシモフの評

アシモフは、短編集『ロボットの時代』の序文で、メアリー・シェリーのエピソードに触れ、「作家の悪夢」という言葉を用いました。これは、『フランケンシュタイン』の登場がそれほど画期的であったことを示しています。また、アシモフは自身の「ロボット工学三原則」が、「フランケンシュタイン・コンプレックス」から脱却するために着想されたものであることを明らかにしました。

関連事項

ディオダティ荘の怪奇談義
フランケンシュタイン・コンプレックス
* ロボット工学三原則

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