作物所

作物所（つくもどころ）とは

作物所は、平安時代に天皇、皇后、東宮らが宮中で使用する調度品を製作するために設けられた機関です。銀器や木器など、様々な品々がここで作られました。

成立と変遷

作物所の起源は内匠寮の雑工部門に遡ります。しかし、他の「所」と同様に、蔵人所の管轄下に置かれるようになり、蔵人頭が別当を兼務する例が多く見られました。ただし、蔵人頭以外の蔵人が任命されることもありました。

承和7年（840年）の灌仏会で作物所が雑具を製作したという記録があり、この頃には既に成立していたと考えられています。承和15年（848年）には、作物所が原因で火災が発生し、永安門の西廊が焼失するという事件も起きました。

職員構成

作物所の職員は、別当、頭、預、案主（史生）、小舎人、雑工などで構成されていました。

別当: 作物所の対外的な責任者であり、宮中の行事や儀式で使用される調度品に関する指示や献上を行いました。多くの場合、殿上人（五位以上の貴族や六位の蔵人）が務めました。
預: 正六位程度の官位の者が任命され、物資の調達や人員の管理などの事務を担当しました。
案主: 諸司の史生が出向して務め、文書処理などの事務作業を行いました。
雑工: 木工、鍛冶、冶師、彫物工、漆工、螺鈿道工など、様々な技術を持つ職人が所属し、調度品の製作にあたりました。銀工、轆轤工、革工などもいたと考えられています。

所在地

12世紀に作成された内裏図によれば、内裏内重の西南隅、永安門の北西、進物所の西側に位置していました。

職掌

作物所は、内匠寮と職掌が重複する部分もありましたが、承和年間には独立した機関として機能していました。儀式や行事において、それぞれ別個に調度品の製作を命じられることもありました。標山や洲浜などの「作り物」や、元服や群行の際に皇子女が用いる御櫛など、装飾性の高い調度品は、主に作物所が製作を担当しました。

芳之内圭は、嵯峨天皇から仁明天皇の時代にかけて、中国文化の導入とともに神仙思想が流行し、天皇やその周辺で神仙の世界を表現した作り物や精巧な調度品に対する需要が高まったことが、作物所成立の契機になったと推測しています。

作物所の活動

『竹取物語』には、車持皇子が蓬莱の玉の枝を偽造する際に、作物所の鍛冶匠が関わっていたという記述があります。また、大嘗会用の台盤や銀器の製作、皇后への卯杖の製作・献上など、宮中の行事や儀式で使用される調度品だけでなく、天皇やその周辺が日常的に使用する様々な調度品の製作記録も残っています。

参考文献

今泉隆雄「作物所」（『国史大辞典 9』吉川弘文館、1988年）
玉井力「作物所」（『日本史大事典 4』平凡社、1993年）
所京子「作物所」（『平安時代史事典』角川書店、1994年）
丸山幸彦「作物所」（『日本歴史大事典 2』小学館、2000年）
芳之内圭「平安時代の作物所」（『日本古代の内裏運営機構』塙書房、2013年）
芳之内圭「平安時代の宮中作物所の職掌」（『日本古代の内裏運営機構』塙書房、2013年）

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