依佐美送信所

依佐美送信所は、愛知県碧海郡依佐美村（現在の刈谷市高須町）に建設された、長波を主に使用した無線送信所です。1929年に運用を開始しましたが、第二次世界大戦後は米軍に接収され、冷戦終結後の1994年に日本に返還されました。その後、施設は解体され、その役割を終えましたが、一部の送信設備は依佐美送信所記念館で保存されています。この送信所は、その技術的な価値が認められ、機械遺産、未来技術遺産、そしてIEEEマイルストーンにも認定されています。

概要

依佐美送信所の特徴は、高さ250メートルの鉄塔8基が1.8キロ[[メートル]]に及ぶ16本のアンテナ用ワイヤーを支え、逆L形フラットトップアンテナを構成していた点です。アース線は、広大な敷地の地中に網の目状に敷設されました。送信機には、周波数5,814Hzの高周波発電機が使用され、三逓倍回路によって17,442Hzの周波数を取り出して使用されました。当時の技術では、直接この周波数を発生させることは難しく、そのため発電機の安定性が重要でした。発電機の回転部分には16トンもの重量が用いられ、回転数を制御するためにワード・レオナード方式が採用されました。送信設備は、予備を含め2組用意され、鉄筋コンクリート製の送信機室に収められました。

対となる受信所は、伊勢湾を挟んだ三重県に設けられました。依佐美送信所は、船橋送信所と共に、太平洋戦争開戦の暗号「ニイタカヤマノボレ一二〇八」を送信した施設の一つとして知られています。特に、潜水艦との通信には超長波が使用されました。

歴史

建設の経緯

第一次世界大戦中、日本は海外との通信を海底ケーブルに依存しており、その全てが欧米の企業によって所有されていました。この状況を打開するため、政府は無線通信の重要性を認識し、長波による対米無線通信所の建設を決定しました。当初は福島県に建設予定でしたが、関東大震災の影響で計画は変更され、特殊会社である日本無線電信会社が設立され、愛知県に建設されることになりました。送信機にはドイツのテレフンケン式高周波発電機が採用されました。

建設工事

工事は1927年に始まり、アース線の埋設、鉄塔建設、局舎建設、送信機材の設置が行われました。資材輸送のため、三河鉄道から専用の鉄道が敷設されました。建設予算は550万円で、その一部は第一次世界大戦の賠償金が充てられました。しかし、賠償金だけで全額が賄われたわけではありません。

運用

1929年、依佐美送信所は長波と短波を用いてワルシャワとの通信を開始しました。しかし、短波通信が発達すると、長波は補助的な役割となり、短波による通信が主流となりました。その後、中国や東南アジアとも通信業務が行われました。長波は海面下への到達性が高いため、潜水艦との通信に利用され、太平洋戦争中には海軍の通信施設としても使用されました。開戦の暗号「ニイタカヤマノボレ」は、一般的には依佐美送信所から送信されたとされていますが、実際には東京の通信隊から船橋送信所を経由して送信されたという説が有力です。

大戦後

終戦後、GHQの命令により短波設備は逓信省に移管され、長波のアンテナ線は撤去されました。しかし、1950年に米海軍が対潜水艦通信のために施設を接収し、電気興業株式会社が保守を担当しました。1955年には米軍が撤退しましたが、施設は電気興業の管理下に置かれ、運用が続けられました。

運用終了

1993年に送信が停止され、翌年に日本に返還されました。米軍は、冷戦終結による予算削減を理由に送信停止を説明しました。1995年からアンテナ線の撤去が始まり、1996年には鉄塔の解体が開始されました。解体工事中には事故も発生し、1名が死亡、4名が負傷しました。最終的に鉄塔は全て解体され、局舎も2006年までに撤去されました。跡地の一部は、フローラルガーデンよさみとして整備され、依佐美送信所記念館が開館しました。

年表

1927年：日本無線電信株式会社が建設に着手
1929年：送信開始（周波数：17.442kHz、コールサイン：JND）
1941年：海軍の対潜水艦通信に使用される
1950年：米海軍が接収
1952年：送信再開（コールサイン：NDT）
1993年：送信終了
1994年：米軍から返還
1996年：鉄塔解体中に事故発生
1997年：鉄塔の解体完了
2007年：依佐美送信所記念館開館

参考文献

刈谷市史編さん編集委員会『刈谷市史』
電気興業株式会社『依佐見送信所 70年の歴史と足跡』
依佐見送信所調査団『依佐見送信所調査報告書』
加藤修「依佐見送信所記念館への招待」

外部リンク

世界最大級の長波通信設備「依佐美送信所」公式サイト
電気興業「依佐美送信所の歴史」
* フローラルガーデンよさみ

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