侵入 (アルバム)

ジェネシス『侵入』（Trespass）

『侵入』（Trespass）は、イギリスを代表するプログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスが1970年10月23日にリリースした、キャリア二作目のスタジオ・アルバムです。この作品は、彼らの音楽性が初期のポップ指向から大きく脱却し、その後のバンドのアイデンティティとなるプログレッシブ・ロックへと深く「侵入」していく契機となった極めて重要なアルバムと位置づけられています。

音楽性の進化とバンドの転換点

前作『創世記』と比較して、『侵入』では楽曲のスケールが格段に拡大し、より複雑で長尺な構成が多用されています。叙情的でありながらドラマティックな展開を見せるサウンドは、後の彼らが確立するプログレッシブ・ロック様式を明確に予感させるものです。メロトロンやオルガンといった鍵盤楽器、アコースティックギターやフルートなどが織りなす繊細かつ壮大なサウンドスケープは、この時期のジェネシスならではの魅力と言えるでしょう。

しかし、このアルバムの制作からリリースにかけて、バンドは重要なメンバーチェンジに直面します。特にギタリストのアンソニー・フィリップスにとっては、本作が参加した最後のジェネシス作品となりました。彼の脱退後、後にバンドのサウンドに多大な貢献をすることになるスティーヴ・ハケットが加入します。

また、当時のドラマーであったジョン・メイヒューも、このアルバムを最後にバンドを離れることになります。他のメンバーは彼のドラミングスキルに満足しておらず、結果として彼は解雇されました。彼の後任として加入したのが、後にドラマーとしてのみならず、ピーター・ガブリエルの脱退後はバンドのフロントマンとしても活躍するフィル・コリンズです。このように、『侵入』はバンドの初期ラインナップによる最後の作品であり、その後の黄金期を支えるメンバーへの移行期を象徴するアルバムでもあります。

商業的な側面

『侵入』は、イギリス本国では必ずしも大きなセールスを記録しませんでした。しかし、ベルギーにおいては予想外の成功を収め、チャートの首位を獲得しています。このベルギーでのヒットがきっかけとなり、ジェネシスは1971年3月に初の本格的な海外ツアーを行うことになり、その後の国際的な活動への足がかりを築きました。

収録曲

全楽曲の作曲は、トニー・バンクス、ピーター・ガブリエル、アンソニー・フィリップス、マイク・ラザフォードの4人によって手がけられています。

A面

ルッキング・フォー・サムワン（旧邦題：何かを求めて） - "Looking for Someone" - 7:06
ホワイト・マウンテン（旧邦題：白い山） - "White Mountain" - 6:45
ヴィジョンズ・オブ・エンジェルス（旧邦題：天使の目） - "Visions of Angels" - 6:51

B面

スタグネーション（旧邦題：よどみ） - "Stagnation" - 8:45
ダスク（旧邦題：たそがれ） - "Dusk" - 4:15
ザ・ナイフ - "The Knife" - 8:55

特にB面ラストに収録された「ザ・ナイフ」は、当時の彼らのライブにおいてもハイライトとなることの多かった攻撃的で劇的な楽曲であり、その後のジェネシスのライブパフォーマンスの方向性を示唆する一曲と言えます。

参加ミュージシャン

ピーター・ガブリエル - ボーカル、フルート、アコーディオン、バスドラム、タンバリン
アンソニー・フィリップス - ギター、ダルシマー、バッキング・ボーカル
トニー・バンクス - オルガン、メロトロン、ピアノ、アコースティックギター、バッキング・ボーカル
マイク・ラザフォード - ベース、ベース・ペダル、ギター、チェロ
* ジョン・メイヒュー - ドラムス、パーカッション、バッキング・ボーカル

『侵入』は、商業的な成功こそ限定的でしたが、ジェネシスがその後の偉大なキャリアを築く上での基礎となり、プログレッシブ・ロック・バンドとしての彼らのサウンドの原点を示す記念碑的な作品として、今日でも高く評価されています。

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