倭姫宮

倭姫宮（やまとひめのみや）

三重県伊勢市楠部町に位置する倭姫宮は、皇大神宮（内宮）の別宮として崇敬を集める神社です。伊勢神宮には、正宮である内宮・外宮に加えて、境内外に14の別宮が存在しますが、倭姫宮は1923年（大正12年）11月5日に創建された、これらの別宮の中で最も新しい歴史を持つ神社であり、その創建年が明確に記録されている唯一の宮でもあります。

祭神と由緒

倭姫宮の主祭神は、日本神話において第11代垂仁天皇の皇女と伝えられる倭姫命（やまとひめのみこと）です。『日本書紀』などによれば、倭姫命は天照大神の鎮座地を求めて各地を巡り、最終的に現在の伊勢の地に神宮を創建したとされています。また、神宮の祭祀や神職の制度を確立し、神道の基礎を築いた功績を持つと伝えられていますが、意外にも明治時代以前には、その偉業を称える単独の神社は存在しませんでした。

創建の歴史と背景

倭姫命を祀る神社の創建を求める声は、明治20年頃（1887年頃）から、当時の宇治山田町（現在の伊勢市中心部）の住民を中心に高まりました。宇治山田町は1906年（明治39年）に市制を施行して宇治山田市となり、その市長が先頭に立って、1912年（大正元年）に国会へ神社の創立に関する請願を行いました。この請願は、1919年（大正8年）に帝国議会で創立予算が可決されるに至り、1921年（大正10年）1月4日には、伊勢神宮内宮の別宮として倭姫宮を創立することが正式に決定されました。そして、1923年（大正12年）11月5日、内宮と外宮の中間に近い倉田山の一角にて鎮座祭が執り行われ、倭姫宮が創建されたのです。

鎮座地として倉田山が選ばれた背景には、この地域が当時、文教地区や観光拠点として開発が進められていたこと、そして倭姫命の陵墓であるとの伝承を持つ尾上御陵（おべごりょう）が近隣にあったことが挙げられます。明治時代には、民家からの火災延焼防止や神苑の整備を目的とする神苑会が設立され、神宮農業館や神宮徴古館といった施設が倉田山に建設されました。また、天皇の神宮参拝のための道路（御幸通り）整備や、神宮皇學館の移転なども行われ、倉田山は近代的な景観を持つ地域へと変貌を遂げていました。尾上御陵は、倭姫宮創建後の1928年（昭和3年）に宮内庁によって「倭姫命御陵墓参考地」に指定され、現在も管理されています。

太平洋戦争中の1945年（昭和20年）には、宇治山田空襲により付近で火災が発生し、同年7月29日には境内の宿衛屋が焼失しましたが、幸いにも本殿は戦火を免れました。

境内と祭事

倭姫宮の境内には、内宮に準じた神明造の本殿が南向きに鎮座しています。本殿は萱葺き屋根で、内削ぎの千木（ちぎ）と偶数である6本の鰹木（かつおぎ）を持ち、周囲は瑞垣（みずがき）と玉垣（たまがき）で囲まれています。また、他の境外別宮と同様に、神職が常駐して神札やお守りの授与などを行う宿衛屋が設けられています。

祭事は皇大神宮の例に倣って行われ、年間を通じて様々な祭典が斎行されます。特に祈年祭、月次祭、神嘗祭、新嘗祭といった重要な祭典には、皇室からの幣帛（へいはく）が供えられることからも、別宮としての格式の高さがうかがえます。

創建以降、倭姫宮を崇敬する人々の活動も活発に行われており、1948年（昭和23年）には地元の崇敬者を中心に「御杖代講」が発足し、後に「倭姫宮御杖代講奉賛会」と改称して、毎年例大祭を執り行うなどの奉賛活動を続けています。

交通アクセス

倭姫宮は、三重県道37号（御幸道路）沿いに位置しており、アクセスも比較的容易です。

最寄駅: 近鉄鳥羽線 五十鈴川駅から徒歩約10分。
バス: 三重交通「徴古館前」バス停から徒歩すぐ。
* 車: 伊勢自動車道 伊勢インターチェンジから約1km。隣接する神宮徴古館の駐車場を利用可能です。

倭姫宮は、伊勢神宮の創始に深く関わる倭姫命の功績を称え、比較的近年に創建された別宮として、静かな環境の中で参拝者に歴史と由緒を感じさせる場となっています。

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