元山連絡所

元山連絡所は、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）江原道高城郡に位置する情報機関で、朝鮮労働党作戦部（現在は朝鮮人民軍偵察総局に改編）の管轄下にあります。この連絡所は、工作員の浸透拠点としての役割を担っており、別名として313連絡所、または第632軍部隊とも呼ばれています。

北朝鮮には4つの主要な海上連絡所が存在し、元山連絡所はそのうちの一つです。他の連絡所としては、清津連絡所（咸鏡北道清津市）、南浦連絡所（南浦特別市）、海州連絡所（黄海南道海州市）があります。これらの連絡所は、海上からの工作員浸透や情報収集活動を支援しており、元山連絡所は特に日本海を介して韓国東海岸地域、釜山周辺、そして西日本一帯への浸透を担当していました。

元山連絡所は、高速スパイ船を配備しており、これらの船舶を利用して工作員を潜入させたり、物資を輸送したりしていました。また、南浦連絡所と共に「商船連絡所」とも呼ばれ、所員は貿易船の船員に偽装し、海外に派遣されていました。彼らは、海賊行為、麻薬や武器などの密貿易にも関与していたとされています。1985年には、水難民支援を名目に韓国に来航した「オウン青年号」が、元山連絡所から貿易船に偽装されて派遣された船舶であったことが明らかになっています。

1989年、元山連絡所は一度完全に解体されましたが、1991年には江原道高城郡にひそかに再建されました。再建後には、ユーゴ型潜水艇が10隻以上配備され、その活動能力が強化されました。これらの潜水艇は、工作員の潜入や物資輸送に利用されていると考えられています。

元山連絡所は、日本人拉致事件にも深く関与しているとされています。拉致被害者である久米裕氏（1977年9月19日失踪）、地村保志氏・浜本富貴恵氏（1978年7月7日失踪）、蓮池薫氏・奥土祐木子氏（1978年7月31日失踪）は、工作船で元山連絡所または清津連絡所に運ばれ、北朝鮮に入国させられた可能性が高いとされています。

元山連絡所は、北朝鮮の諜報活動において重要な役割を果たしており、その活動は周辺国に大きな脅威を与えてきました。その活動の実態は、現在もなお多くの謎に包まれていますが、その存在が地域の安定を損なう要因となっていることは明らかです。

参考文献:

清水惇『北朝鮮情報機関の全貌―独裁政権を支える巨大組織の実態』光人社、2004年5月。ISBN 4-76-981196-9。
全富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社〈講談社プラスアルファ文庫〉、2002年10月（原著1999年）。ISBN 4-06-256679-6。
高世仁『拉致 北朝鮮の国家犯罪』講談社〈講談社文庫〉、2002年9月（原著1999年）。ISBN 4-06-273552-0。


関連項目:

朝鮮労働党作戦部
* 朝鮮民主主義人民共和国の諜報・情報機関

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