南浦特別市

南浦特別市（ナムポ/ナンポとくべつし）

南浦特別市は、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の西部に位置する都市で、平壌の重要な外港として知られています。貿易港としての役割に加え、工業都市としての側面も持ち合わせています。かつては「鎮南浦」と呼ばれていたこの地は、日本統治時代にその名が由来しています。1979年から2004年までは直轄市として位置づけられていましたが、その後、平安南道に属する「特級市」となりました。2010年以降、再び平安南道から分離され、特別市としての地位を確立しました。

地理

南浦は、大同江の河口から約39km上流に位置する港湾都市です。北側は平壌直轄市、南側は黄海北道と接しており、その地理的な位置から、北朝鮮の貿易において重要な役割を果たしています。

行政区画

南浦特別市は、5つの区域と2つの郡で構成されています。

江西区域（カンソグヨク）
大安区域（テアングヨク）
臥牛島区域（ワウドグヨク）
千里馬区域（チョンリマグヨク）
港口区域（ハンググヨク）
温泉郡（オンチョングン）
龍岡郡（ヨンガングン）

歴史

李氏朝鮮時代、南浦は小さな漁村に過ぎませんでしたが、1894年の日清戦争で日本軍の兵站基地となったことをきっかけに、その発展が始まりました。1897年に開港し、鉄道も敷設されたことで、急速な成長を遂げました。1945年までは「鎮南浦」と呼ばれ、平安南道に属していました。日本統治時代には、1905年に統監府の地方官署である理事庁が置かれ、1913年には府制が施行され、鎮南浦府となりました。1979年12月には、龍岡郡と大安市を編入して直轄市に昇格し、平安南道から分離しました（南浦直轄市）。2004年1月9日には、行政区画の再編が行われ、南浦直轄市は廃止され、平安南道に編入されました。中心部は南浦特級市となり、郊外の区域は南浦から切り離され郡となりました。この「特級市」という行政区分は、道に属する行政区分として北朝鮮で初めて導入されたものです。2011年2月15日には、韓国統一部が南浦特別市への変更が行われたとの見解を発表しました。

年表

1906年：平安南道三和郡を鎮南浦府に改編。
1910年：平安南道所属の鎮南浦府が発足。
1914年4月1日：郡面併合により、旧鎮南浦府を廃止し、元唐面の一部（鎮南浦港付近の区域）を新鎮南浦府として指定。残りの地域は龍岡郡に編入。
1939年：龍岡郡大代面の一部を編入。
1950年：鎮南浦府が南浦市に改称。龍岡郡大代面・陽谷面の各一部を編入。
1952年12月：郡面里統廃合により、平安南道龍岡郡多美面・吾新面・陽谷面の各一部が南浦市に編入。16洞7里が成立。
1960年：洞の分割・統合により15洞8里となる。
1961年：洞の一部編入。
1963年3月：龍岡郡、温泉郡の一部を編入。19洞12里となる。
1965年：洞の分割・統合により25洞10里となる。
1967年：洞の一部を分割し、27洞10里となる。
1972年：労働者区へ降格。(26洞1労働者区10里)
1974年5月：温泉郡の一部を編入。高霊里が大代里に編入。その他里の合併などあり。(27洞10里)
1977年：大代里が大代洞に昇格。(28洞9里)
1979年12月：平安南道南浦市・大安市・龍岡郡を同道から独立させ、南浦直轄市として再編。(1区域1市1郡)
1981年：洞の改称、新洞の発足(1区域1市1郡、うち南浦区域29洞9里)
1983年：南浦区域を港口区域・臥牛島区域に分離。大安市を江西区域・大安区域・千里馬区域に分離。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域29洞9里)
1984年：龍岡郡の一部を編入。島智洞を分割。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域29洞13里)
1987年：平安南道大同郡の一部を江西区域に編入。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域29洞13里)
1988年7月：黄海南道殷栗郡の一部を臥牛島区域に編入。里の分割・統合あり。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域30洞14里)
1989年：江西区域の一部が千里馬区域に編入。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域30洞14里)
1991年：面積約1,000km2、人口約807,000人であった。
1993年12月：洞の分割。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域32洞14里)
1995年：洞の分割。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域35洞14里)
1996年：黄海南道クァイル郡の一部を港口区域に編入。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域35洞15里)
1999年6月：閘門洞を改称し、新洞の発足。(5区域1郡、うち港口・臥牛島区域36洞15里)
2004年1月9日：南浦直轄市が廃止され、平安南道に編入。港口区域・臥牛島区域を平安南道南浦特級市に再編。市内の区域は廃止。江西区域、大安区域、千里馬区域をそれぞれ郡に改編。(36洞15里)
2010年：南浦特級市、江西郡、大安郡、温泉郡、龍岡郡、千里馬郡を独立させ、南浦特別市を新設。南浦特級市を廃止、港口区域・臥牛島区域を設置。江西郡を江西区域、大安郡を大安区域、千里馬郡を千里馬区域に改編。

産業

南浦は、日本統治時代から平壌の外港として、朝鮮半島北部最大の貿易港でした。かつては釜山、仁川に次ぐ貿易額を誇り、精錬所、ガラス、造船、化学工業が発達していました。現在では、ガラス、機械、有色金属類が中心となっています。市内には、韓国統一教会系の企業との合弁企業である平和自動車の工場があり、乗用車が生産されています。大同江の河口には、巨大な河口ダムである「西海閘門」が建設されており、ダム湖内部は淡水化されています。堤防上には鉄道と道路が作られ、治水、水運、交通に貢献しています。

教育

南浦には、以下のような高等教育機関があります。

南浦大学
西海大学
南浦外国語学院
南浦技術大学

その他、南浦市階級教養館、水山里階級教養館、大安革命史跡館などの教育施設があります。

交通

南浦は、平壌の海の玄関口として、海運、河川航路、鉄道、道路が発達しています。北朝鮮の海外貿易の中心であり、戦前から南浦と大連を結ぶ航路が運行されていました。現在も大連、天津を結ぶ国際貨物航路が継続されています。

鉄道

朝鮮民主主義人民共和国鉄道省
平南線（平壌 - 平南温泉）
南浦支線（新南浦駅 - 南浦駅）
箴津里線（降仙駅- 箴津里駅）
保山線（江西 - 保山）
大安線（江西 - 平南大安）
龍岡線（龍岡駅 - 麻永駅）
後山線（後山駅 - 陽幕駅）
南洞線（平南温泉駅 - 安石駅）
島智里線（南浦 - 島智里）
西海閘門線（鉄鉱 - 新寧里）

高速道路

1998年に完工した青年英雄道路が南浦と平壌を繋いでいます。

文化・観光・施設

南浦には、以下のような観光地や施設があります。

臥牛島遊園地：市内中心部から南西に10kmの場所にある小さな山で、頂上には東屋があります。ボート乗り場、休養所、花草園などがあり、市民の憩いの場となっています。
西海閘門：朝鮮西海の海域8kmを塞き止めて建設された閘門。5万トン級の船舶が通過できます。
台城湖：平壌から西へ30km以上離れた山中の湖。ゴルフ場や少年団キャンプ場があります。
南浦児童交通公園
水山里階級教養館

遺跡

南浦周辺には、新石器時代の巨石墓や高句麗時代の壁画古墳、山城が残っています。江西区域と龍岡郡にある壁画古墳は、ユネスコ世界遺産「高句麗古墳群」の一部を構成しており、歴史的にも非常に重要な場所です。

江西三墓（江西区域）
徳興里古墳（江西区域）
修山里古墳（江西区域）
薬水里古墳（江西区域）
龍岡大墓（龍岡郡）
双楹塚（龍岡郡）

これらの遺跡は、古代の歴史を今に伝える貴重な遺産です。

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