光る砂漠

詩集『光る砂漠』

『光る砂漠』は、夭折の詩人、矢沢宰の詩を集めた詩集です。1967年に有志によって自家出版されたのが最初で、その後、1968年に南北社から、1969年には童心社から刊行されました。童心社版は周郷博によって編集され、54編の詩が収録されています。周郷の解説によると、これらの詩の半数以上は、矢沢が16歳の時に書かれたものだということです。

合唱組曲『光る砂漠』

萩原英彦は、矢沢宰の詩集『光る砂漠』に触発され、合唱組曲を作曲しました。この組曲は、1971年に中部日本放送の委嘱によって混声合唱版が作曲され、同年の文化庁芸術祭で優秀賞を受賞しました。初演は同年11月で、日本合唱協会が合唱を担当し、木下保が指揮、三浦洋一がピアノを担当しました。

萩原自身が「放送後の反響がすさまじかった」と語るように、その斬新で精緻な作曲技法と、清冽な詩情が多くの人の心を捉え、瞬く間に全国で関心を集めました。1977年には女声合唱版も刊行され、男声合唱版は福永陽一郎の編曲によるものが存在します。

萩原は、矢沢の詩集を読んだ際に「心に音響化されるべき想いが浮かび上がった」と感じたと述べています。また、「このような日本語に遭遇したのは久しぶりだった」「二、三度詩を読み返した時、すでに自分の中に音楽が生まれた」とも語っています。この組曲は、後に萩原が作曲する『白い木馬』(詩:ブッシュ孝子)、『花さまざま』(詩:細川宏)とともに「遺稿三部作」とされています。

萩原の合唱組曲の特徴として、奇数曲は中心となる曲に対してシンメトリーを意識して構成されている点が挙げられます。彼はセザール・フランクの循環形式を有機体の生成の比喩として捉え、研究した成果をこの組曲に意識的に取り入れています。組曲のタイトルは詩集と同じですが、これは矢沢が20歳の時に書いた詩「少年」の一節から取られています。また、出版譜の巻末には、組曲のテーマとしてジャック・アルカデルト作曲の「Ave Maria」のテーマを逆から読んだ音型を用いたことが解説されています。

組曲構成

組曲は全9曲から構成されています。

1. 再会
2. 恋の詩でも読んだあとのように
3. 早春
4. 海辺で
5. ほたるは星になった
6. 落石
7. 秋の午後
8. さびしい道
9. ふるさと

女声版の「再会」は、平成29年度の全日本合唱コンクールの課題曲にも選ばれました。

楽譜

混声版と女声版の楽譜はカワイ出版から出版されています。男声版は未出版です。

関連情報

この作品は「日本の合唱作品100選」にも選ばれています。

参考文献

「日本の作曲家シリーズ 9 萩原英彦」『ハーモニー』No.93（全日本合唱連盟、1995年）
「名曲シリーズへのアプローチ」『ハーモニー』No.180（全日本合唱連盟、2017年）

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