児雷也豪傑譚

『児雷也豪傑譚』は、天保10年（1839年）から明治元年（1868年）にかけて刊行された、全43編にも及ぶ長編合巻小説です。美図垣笑顔を筆頭に、一筆庵、柳下亭種員、柳水亭種清と、複数の作者がバトンを受け継ぎ、歌川国貞ら多くの浮世絵師が挿絵を担当しました。出版元は和泉屋市兵衛です。

本作の主人公は、肥後国出身の豪族の子孫、尾形周馬弘行。信濃国で育ち、雷獣退治などでその武勇を示した後、「児雷也」と名乗り、蝦蟇を操る妖術使いとして活躍します。物語は、彼と、ナメクジを操る綱手、蛇を操る宿敵・大蛇丸の三すくみの戦いを中心に展開します。彼らは幾度となく激突し、時に敗北を喫しながらも、抗争を続けます。

物語の基盤となったのは、文化3年（1806年）に感和亭鬼武が著した読本『自来也説話』です。しかし、『児雷也豪傑譚』は、一筆庵が執筆に加わったあたりから、カエル、ヘビ、ナメクジの三すくみという独自の要素が加わり、物語の世界観は大きく広がりました。

この作品は、当時流行した合巻小説の特徴を色濃く反映しています。1年に2～3編ずつ刊行される方式のため、年ごとに展開に若干の差異や矛盾が生じることもありました。これは、毎年の刊行に合わせた趣向を凝らした展開が特徴であり、一貫したストーリー展開を重視する読本とは異なる手法です。柳下亭種員の遺稿を柳水亭種清が引き継ぎ執筆されましたが、明治維新を挟んだため、未完に終わりました。

『児雷也豪傑譚』は、後世にも大きな影響を与えました。嘉永5年（1852年）には河竹黙阿弥によって歌舞伎『児雷也豪傑譚話』として舞台化され、明治以降も講談や書き下ろし講談本などで親しまれました。1921年には牧野省三監督、尾上松之助主演で映画『豪傑児雷也』が製作されるなど、「忍術もの」として数多くの映画化が行われました。

近年では、ゲーム『天外魔境 ZIRIA』や漫画・アニメ『NARUTO -ナルト-|NARUTO_-ナルト-』においても、児雷也、綱手、大蛇丸の三人は「伝説の三忍」として登場し、その存在感を示しています。これらの作品における設定やキャラクター像は、『児雷也豪傑譚』を強く意識したものであると言えるでしょう。

『児雷也豪傑譚』は、江戸時代の世相を反映しつつ、独自の面白さで読者を魅了した合巻小説です。未完という点も、多くの読者に惜しまれつつ、その後の創作活動に大きな影響を与え、現在まで語り継がれている作品なのです。その魅力は、時代を超えて多くのクリエイターや作品に受け継がれ、現代でも新鮮な驚きと興奮を与え続けています。

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