入山峠

入山峠（いりやまとうげ）

入山峠は、群馬県と長野県の境界に位置する標高1,038メートルの峠です。古くから交通の要衝であり、特に古代においては東山道の一部として利用されていました。当時の史料に見られる「碓氷坂」はこの入山峠を指していたと考えられています。現代においては、国道18号の碓氷バイパスがこの峠の近くを通過しています。

歴史的背景

古代に整備された東山道は、上野国（現・群馬県）と信濃国（現・長野県）を結ぶ主要路として、この入山峠を経由する経路が取られていました。しかし、中世になり中山道が開かれると、そちらはより北方に位置する碓氷峠を経由するようになりました。中山道が碓氷峠を選んだのは、その地形が険しく、防衛拠点として容易であったためと考えられています。

一方、近世に入ると、入山峠を通る道筋は中山道の「裏街道」として活発に利用されるようになりました。この道は「入山道」と呼ばれ、同じく裏街道であった和美峠を通る下仁田道とともに賑わいを見せました。入山道が利用された背景には、中山道の軽井沢宿や坂本宿といった宿場での宿泊や手続きを省き、通行が比較的容易であったことが挙げられます。

入山道の具体的なルートとしては、中山道の碓氷関と坂本宿の間に位置する原村で中山道から分岐し、遠入川を遡上して入山峠を越えるのが一般的でした。峠を越えた先では、借宿村（現在の軽井沢町）で中山道に合流する道と、発地（現在の軽井沢町）、面替（現在の御代田町）などを経て岩村田宿（現在の佐久市）で中山道に合流する道の二つの経路が存在しました。しかし、この入山道は碓氷関に近い要害の地にあったため、原則として地元の甘楽郡に属する入山村や恩賀村の住民以外には通行が制限されていました。例えば、享保18年（1733年）に江戸幕府が信州米を買い上げた際も、信州から輸送された米は入山村で一旦荷下ろしされ、入山村の馬に積み替えて運ばれたという記録が残っています。

このように、入山道は公的な主要街道ではなかったものの、特に信州各藩からの米輸送など、商品輸送路として重要な役割を果たしていました。しかし、この非公式な利用は、中山道の宿場にとっては営業上の脅威となりました。文政6年（1823年）には入山村で通行料が徴収されるようになり、さらに文政8年（1825年）には、中山道の沓掛・軽井沢・坂本の三宿が困窮していることを理由に、幕府によって入山道の通行が禁止されました。

この通行禁止措置は、入山道を利用していた沿道の農民たちから強い不満を引き起こし、一時的な妥協が成立したものの、その後も紛争が続きました。最終的には文政10年（1827年）になり、米を輸送する「廻米」に限って再び通行が許可されることになりました。その後も、弘化4年（1847年）に上田藩が江戸へ米を送る際に入山道を経由して松井田宿まで輸送されるなど、利用は続けられました。安政4年（1857年）には、沿道の村々が入山道の全面的な通行差止撤廃を幕府に願い出るに至っています。

近代以降の調査では、1955年に付近から多数の石製祭器が出土し、古代からの祭祀が行われていた可能性が示唆されました。さらに、1969年には碓氷バイパス建設に先立つ発掘調査が行われ、その結果、入山峠が古代の碓氷坂であったことが学術的にも確かめられています。

近年の事故

近年、入山峠はその近くで発生した痛ましい事故によっても知られています。2016年（平成28年）1月15日未明、入山峠のほど近く、群馬県と長野県の県境付近（軽井沢駅からおよそ2キロメートル地点）で、大型観光バスが道路脇に転落する事故が発生しました。この事故は「軽井沢スキーバス転落事故」と呼ばれ、定員45名のバスに乗っていた乗員2名と乗客39名の合わせて41名全員が死傷するという極めて重大なものでした。最終的に、死者15名、負傷者26名（乗員は両名とも死亡）という結果になりました。

この事故は、1985年に発生し25名が死亡した犀川スキーバス転落事故以来、30年ぶりに10名を超える死者を出したバス事故となり、過去30年間においては最多の死者数を記録する悲劇となりました。

入山峠は、古代からの歴史的な重要性と近世における交通の一端を担った役割に加え、近年発生した重大事故の現場としても、日本の交通史や社会史において記憶されるべき場所です。

参考文献
日本歴史地名大系（オンライン版） 小学館

関連項目
日本の峠一覧
* 中山道幹線（入山峠を経由するルート案が存在した）

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