全日本アラブ大賞典

全日本アラブ大賞典

全日本アラブ大賞典は、かつて日本の地方競馬、特に大井競馬場において極めて重要な位置を占めていたアングロアラブ系競走馬のための重賞競走でした。1955年に創設され、1996年にその幕を閉じました。

この競走は、1955年に大井競馬場で「秋の特別」として誕生しました。当時、サラブレッドの秋の鞍（現在の東京大賞典）と並び立つ存在として、アングロアラブ系競走馬の下半期における有力馬が集う競走として位置づけられました。創設当初は名称の通り秋に実施され、年末の川崎で開催されていたアラブチャンピオンとともに、南関東公営競馬におけるその年の後半戦の最強アラブを決定する重要な一戦でした。

時を経て、この競走は変遷を遂げます。1964年には「アラブ大賞典」と改称。さらに1968年には、施行時期がアラブチャンピオンと入れ替わることになり、年末の掉尾を飾るビッグレースとしての性格をより強固なものとしました。そして、1972年12月に行われた第18回からは、南関東地区以外の地方競馬に所属する競走馬も出走できるようになり、交流競走へと発展。「全日本アラブ大賞典」と名称も変更されました。記念すべきこの全国交流初年度の優勝馬は、兵庫から参戦したタイムライン。これは「アラブのメッカ」と呼ばれた大井競馬場の意地を見せる形となりました。

交流競走としてのステータスはさらに向上します。1985年からは、中央競馬（JRA）所属馬にも出走枠が設けられ、これにより全日本アラブ大賞典は名実ともに日本のアラブ系競馬における頂点に立つ競走となりました。実際、JRAで3年連続最優秀アラブに輝いたアキヒロホマレも、1988年にこのレースに参戦しています（結果は8着）。全国から精鋭のアングロアラブが集まるこの舞台は、それに騎乗するために各地の名手たちが集結し、互いの腕を競い合う一種の「騎手オールスター戦」のような様相を呈することも珍しくありませんでした。

歴代優勝馬には、センジユ、タイムライン、ミスターヨシゼン、ローゼンホーマ、トチノミネフジといった、日本の戦後アラブ競馬史に輝かしい足跡を残した名馬たちが名を連ねています。また、タカトシ、センジユ、アデルバウエル、ミスターヨシゼン、コスモノーブル、トチノミネフジといった複数回この競走を制した馬も存在します。

競走の条件も時代によって変化しました。創設当初の距離はダート2400メートルでしたが、第19回からはダート2600メートルに延長されました。計時方法も当初は1/5秒表示でしたが、第5回以降は1/10秒表示が用いられています。出走条件も交流競走化に伴い変化し、第18回から地方競馬全国交流、第31回からは中央・地方全国交流となり、最終年の第42回は5歳以上の地方競馬全国交流として実施されました。

しかし、アングロアラブ系競走馬の国内在厩頭数の減少という時代の流れには逆らえませんでした。これに伴い、1996年に大井競馬場でのアラブ系競走が廃止されることとなり、全日本アラブ大賞典も同年7月に開催された第42回をもって廃止されました。

その後、中央競馬から地方へ移管されたタマツバキ記念がアラブ系の全国交流競走の役割を担うこととなりましたが、こちらも2007年に廃止され、日本におけるアングロアラブ系の全国交流競走は姿を消しました。

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