全日空松山沖墜落事故

全日空松山沖墜落事故

1966年11月13日、全日本空輸（全日空）が運航する国産旅客機YS-11が、松山空港沖に墜落し、乗員乗客50人全員が犠牲となった航空事故です。

事故の概要

大阪国際空港（伊丹空港）発、松山空港行きの全日空533便は、当初フォッカー F27「フレンドシップ」で運航予定でしたが、機材繰りの都合と予約超過のため、日本航空機製造YS-11（機体記号:JA8658）に変更されました。出発も1時間半遅れ、午後8時半に松山空港へ到着し着陸態勢に入りました。

着陸時に機体は一度滑走路に接地したものの、直後に上昇を開始。副操縦士が着陸やり直しを指示するも、その直後、午後8時32分に松山空港西方約2kmの海上に墜落しました。

事故発生後、海上保安部が捜索を開始。機体の一部が発見され、愛媛県警も対策本部を設置。翌日には海上自衛隊が海底で垂直尾翼などを発見。その後も大規模な捜索が行われ、エンジンの引き上げも行われましたが、プロペラの1枚は破損し、エンジンから離れた場所で発見されました。

この事故で、乗務員5人と乗客45人の計50人全員が犠牲となりました。犠牲者の中には、宇和島医師会の医師、全銀連の集会に参加した伊予銀行員、そして新婚旅行のカップル12組も含まれており、社会に大きな衝撃を与えました。

また、事故の2日後には、捜索活動中のヘリコプター同士が空中衝突し、4名が死亡する二次災害も発生しました。

事故機のYS-11は、事故発生の半年前、1966年5月に全日空に引き渡されたばかりの新造機でした。

事故調査

当時の旅客機にはブラックボックスが搭載されておらず、事故原因の特定は困難を極めました。事故調査委員会は、速度計の誤読や故障などを推測原因として検討しましたが、最終的にはパイロットのミスを示唆する報告書をまとめました。

機体変更により、当初予定になかったフライトとなった機長の過労、着陸復航を余儀なくされた状況、操縦席の風防の水滴や計器の誤読による操縦ミスなどが指摘されましたが、決定的な証拠は見つかりませんでした。

事故機の95%が回収され、徹底的な検証が行われました。副操縦士の鼻毛が機長席に付着していたことから、席を入れ替わっていた可能性が疑われましたが、整備士の証言から墜落時の衝撃で副操縦士が計器に激突したと結論付けられました。また、乗務員の遺体からアルコール反応が出たことで飲酒疑惑も浮上しましたが、死亡後の血液発酵によるものと判明しました。

航空局の主席飛行審査官は、片方のプロペラがエンジンから大きく離れた場所で発見されたことから、エンジンの停止やプロペラの破損・脱落が原因であると主張しましたが、採用されませんでした。

事故の影響

この事故で、全銀連の大会からの帰路にあった伊予銀行の労働組合員が多数犠牲になり、関西圏で新婚旅行先として人気だった道後温泉に向かうカップルが多数亡くなったことは社会に大きな衝撃を与えました。また、犠牲となったカップルは婚姻届を提出していなかったため、損害賠償交渉が難航しました。

法務省は、婚姻届の早期提出を促す広報を出す事態となりました。なお、死亡した乗客への補償額は、当時としては過去最高額の1人当たり800万円となりました。

犠牲者の遺体が海流で発見されないケースが多かったため、付近の海産物への風評被害も発生しました。松山市の正宗寺には、この事故の犠牲者を悼む慰霊碑が建立されています。

この事故をきっかけに、地方空港の滑走路拡張工事が進められ、松山空港も埋め立てにより2,500mまで延長されました。この地方空港拡張事業は、ジェット機の旅客便発着を可能にする効果をもたらしました。

全日空は、この事故の前に発生した羽田沖墜落事故に続き、短期間で2度目の全員死亡事故を起こしたため、安全対策への信頼を完全に失いました。経営難に陥った全日空は、日本航空からの大規模な支援を受け、経営再建を図ることとなりました。しかし、この事故以降、全日空は単独での死亡事故を発生させていません（2023年11月現在）。

二重遭難事故

事故発生から2日後の11月15日、遺体捜索中のヘリコプター同士が愛媛県北条市（現在の松山市）粟井沖で空中衝突し、双方の操縦士ら4名が犠牲になるという二次災害が発生しました。捜索に集中するあまり、互いの接近に気づくのが遅れたことが原因とされています。

備考

533便は欠番扱いにはならず、2023年2月現在は羽田空港-高松空港線で使用されています。

1966年は、日本で航空事故が多発した年であり、全日空松山沖墜落事故以外にも、複数の航空機事故が発生しました。

全日空羽田沖墜落事故（2月4日）
カナダ太平洋航空機墜落事故（3月4日）
BOAC機墜落事故（3月5日）
日本航空羽田空港墜落事故（8月26日）

これらの事故は、当時の航空安全体制に大きな課題を突きつけました。

参考資料

事故調査報告書
「全日本空輸株式会社,日本航空機製造式YS-11型,JA8658」『日本航空学会誌』
鉄道・航空機事故全史
続・マッハの恐怖
航空事故―人類は航空事故から何を学んできたか?
全日空ＹＳ－１１型機　松山で墜落 - NHK放送史

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