八原博通

八原博通の生涯

八原博通（やはら ひろみち）は、1902年10月2日、鳥取県米子市で生まれました。養蚕農家を営む家庭に育ち、父は役場の吏員でした。米子中学校（現米子東高校）では、学業優秀で、特に学術科目は全て「甲」の成績を修め、卒業時には首席で卒業生総代を務めるほどの秀才でした。家計を考慮し、陸軍士官学校に進学しました。

陸軍士官学校では、学科で抜群の成績を収め、教官からも一目置かれる存在でした。しかし、術科は平均的な成績であり、総合的な卒業成績は歩兵科5番目でした。陸軍大学校では、最年少で入学し、優等で卒業、恩賜の軍刀を拝領しました。

1933年から2年間、アメリカに留学し、アメリカ社会や軍事力を目の当たりにします。アメリカ軍の戦力を正しく認識し、日本軍の対米認識の甘さを指摘しましたが、理解されませんでした。帰国後、陸軍大学校教官などを経て、太平洋戦争開戦を迎えます。

沖縄戦での作戦

太平洋戦争中、八原は第15軍参謀としてビルマ攻略作戦に従事した後、沖縄戦では第32軍の高級参謀として戦略持久作戦を立案しました。当初は水際での積極攻勢を主張しましたが、防衛部隊の主力である第9師団が台湾に移転したため、戦略持久へと方針を転換しました。

八原は、アメリカ軍との戦力差を分析し、沖縄の地形を利用した洞窟陣地を構築し、徹底的な持久戦を展開しました。この作戦は、アメリカ軍に多大な損害を与え、アメリカ軍司令官の戦死を招くなど、大きな成果を上げました。しかし、同時に沖縄県民に多大な犠牲を強いる結果となり、その責任を問われることもあります。

戦略の転換

八原は、当初、水際撃滅戦を考えていましたが、戦力不足から持久戦へと方針を転換しました。その背景には、アメリカ軍との戦力差を正確に分析し、アメリカ軍の火力を過小評価していた当時の日本軍の状況を理解していたからだと言われています。アメリカ留学中に知り得たアメリカの軍事力、特に火力を重視する戦略を理解していたからこその判断でした。

持久戦の戦略

八原は、沖縄の地形を利用し、洞窟陣地を構築しました。この陣地は、艦砲射撃や爆撃に耐えられるよう、非常に堅牢なものでした。この陣地を活用し、アメリカ軍を日本軍陣地の直前まで誘導して攻撃し、アメリカ軍に大きな損害を与えました。八原の戦略は、アメリカ軍から「スマートだった」と評価されるほど効果的なものでした。

持久戦の限界

しかし、大本営からの攻撃の催促や、参謀長の直情的な行動により、持久戦から無謀な夜間突撃に切り替えられ、大きな損害を被ります。その後、牛島満中将は八原の戦略を全面的に採用し、持久戦を継続しましたが、日本軍の損耗も激しく、最終的には沖縄南部に撤退することとなりました。

沖縄県民の犠牲

八原の持久戦は、アメリカ軍に大きな損害を与えた一方で、沖縄県民に多大な犠牲を強いる結果となりました。特に、日本軍が戦闘力を失った後の首里放棄、南部への撤退は、沖縄県民を戦火に巻き込むことになり、八原の責任を問う声も存在します。八原自身も、この点については深く責任を感じていたとされています。

終戦とその後

八原は、牛島満中将の命令により、本土へ戦訓を伝えるため、民間人に変装して脱出を試みますが、アメリカ軍に捕虜となります。捕虜収容所では、身分を偽り作業に従事していましたが、後に発覚し、アメリカ軍の尋問を受けました。尋問中、アメリカ軍将校と沖縄戦について議論を交わし、戦後、1946年1月に復員しました。

復員後、故郷で農業を営みますが、生活に困窮し、行商を始めました。警察予備隊創設の際、入隊の誘いを受けますが、「二度と他人に死を強制するような仕事はしたくない」と断っています。その後は、子供の教育に力を入れ、子供たちが独立した後、長男と同居し、1981年5月7日に78歳で亡くなりました。旧軍関係者とは距離を置いており、葬儀に参列した旧軍関係者はわずか5人だったといわれています。

八原博通の評価

八原博通は、その優れた戦略眼によってアメリカ軍から高く評価された軍人です。特に、沖縄戦での持久戦術は、アメリカ軍に大きな損害を与え、その後の戦局に大きな影響を与えたと言われています。しかし、その作戦は多くの沖縄県民の犠牲を伴い、今日でもその責任が問われています。

アメリカ軍の評価

アメリカ軍は、八原の沖縄戦での作戦を高く評価しています。アメリカ陸軍の戦史にも、「沖縄における日本軍は、まことに優秀な計画と善謀をもって、わが進攻に立ち向かった」と記されています。また、アメリカ軍の捕虜収容所では、アメリカ軍兵士が「沖縄の日本軍の作戦はスマートだった」と評価していたという証言もあります。

日本国内の評価

日本では、八原の作戦は、沖縄県民に多大な犠牲を強いたとして批判されることもあります。しかし、その優れた戦略眼と戦術によって、アメリカ軍に多大な損害を与えたことも事実です。八原の評価は、その功績と犠牲の双方を考慮する必要があると言えるでしょう。

まとめ

八原博通は、沖縄戦で優れた戦略を発揮した軍人であり、アメリカ軍からも高く評価されています。しかし、その作戦は、多くの沖縄県民の犠牲を伴い、今日でもその責任が問われています。八原の生涯は、戦争という極限状態における人間の複雑さを示すものと言えるでしょう。

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