八重奏曲

八重奏曲とは、音楽において八つの楽器によって演奏される重奏曲、あるいは八人の演奏家のために書かれた楽曲を指します。一般的には、バイオリンやチェロなどの弦楽器、フルートやクラリネットといった管楽器、またはこれらを組み合わせたアンサンブルによる器楽作品を指すことが多いですが、広義には声楽曲である八重唱曲（オクテット）や、特定の編成のジャズバンドなどを指す場合もあります。

このジャンルで最もよく知られている作品としては、フランツ・シューベルトによるヘ長調の八重奏曲 作品166と、フェリックス・メンデルスゾーンによる変ホ長調の弦楽八重奏曲 作品20の二つが挙げられます。シューベルトの八重奏曲は、クラリネット、ファゴット、ホルンの管楽器と、弦楽四重奏（バイオリン2、ビオラ1、チェロ1）、さらにコントラバスという、管楽器と弦楽器が混ざり合った珍しい編成で書かれています。一方、メンデルスゾーンの作品は、弦楽四重奏が二組合わさった、八本の弦楽器のみによる編成で、若き作曲家が16歳という年齢で完成させた驚異的な傑作として知られています。同じく若い頃に八重奏曲を作曲した例としては、ジョルジュ・エネスコが19歳で完成させた弦楽八重奏曲 作品7があります。

ロマン派の時代には、他にも八重奏曲が作曲されました。デンマークの作曲家ニルス・ガーゼの弦楽八重奏曲 作品17は、恩人であったメンデルスゾーンへの追悼の意が込められていると言われています。また、ノルウェーのヨハン・スヴェンセンの作品3や、ロシアのレインゴリト・グリエールの作品5（弦楽八重奏曲）などもこの時代の重要な作品です。特筆すべきは、マックス・ブルッフが1920年という比較的遅い時期に、メンデルスゾーンの影響を色濃く受けた弦楽八重奏曲（作品番号なし）を作曲していることです。

20世紀に入ると、八重奏曲はさらに多様な編成や音楽語法で作曲されるようになります。イーゴリ・ストラヴィンスキーは、フルート、クラリネット、2本のファゴット、2本のトランペット、2本のトロンボーンという、弦楽器を一切含まない独特な管楽器だけの編成で、1923年に《管楽器のための八重奏曲》を発表しました。パウル・ヒンデミットも、クラリネット、ファゴット、ホルンと弦楽六重奏（バイオリン1、ビオラ2、チェロ1、コントラバス1）という混合編成による八重奏曲を作曲しています。ドミートリイ・ショスタコーヴィチの《弦楽八重奏のための2つの小品》作品11は、若書きながら高度な演奏技巧と無調的な響きを特徴としています。エドガー・ヴァレーズの《オクタンドル》（1923年）は、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、コントラバスという編成で、これもまた通常の重奏曲とは異なる現代的な響きを持っています。さらに後の時代の例では、ジョン・ケージの《エイト》（1991年）が、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバという管楽器編成で書かれており、広義の八重奏曲として分類されることがあります。

日本語で「オクテット」とカタカナ表記する場合、クラシック音楽の八重奏曲に加え、8人編成のジャズ・バンドを指すこともあります。例えば、サクソフォン奏者のデイヴィッド・マレーが主宰する実験的なジャズ・アンサンブルは「ザ・デヴィッド・マレー・オクテット」として知られています。

欧米の言語において「オクテット」（octet）という言葉は、器楽曲としての八重奏曲だけでなく、8人の歌手による八重唱曲を指す場合もあります。そのため、原語の文献や楽譜に接する際は、文脈から器楽曲と声楽曲のいずれを指しているのかを注意深く判断する必要があります。特に器楽の八重奏曲と明確に区別したい場合は、「vocal octet」のように修飾語を付けて表現されることがあります。標準的な八重唱の編成としては、ソプラノ、アルト、テノール、バスの各声部を2パートずつ重ねた形が一般的ですが、バスの代わりにバリトン声部を加える場合など、様々な編成が存在します。

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