公条本源氏物語

公条本源氏物語：謎多き源氏物語写本

概要

「公条本源氏物語」は、室町時代の公家、三条西公条（1487-1563）に由来するとされる源氏物語の写本です。しかし、写本自体には所有者を示す奥書や識語がなく、古筆鑑定による裏付けもありません。そのため、三条西公条との関連性は不明な点が多いままです。

巻によって、時には巻の途中でも筆跡が変化する「寄合書」である点が特徴的です。少なくとも4種類の筆跡が確認されていますが、いずれも熟練した書家とは思えない稚拙なもので、三条西公条の他の作品と比較しても一致しません。装丁も質素で、表紙は改装されており、古紙を再利用している痕跡が見られます。保存状態も悪く、虫食いの被害も受けています。

書誌学的分析や放射性炭素年代測定の結果から、写本の成立時期は江戸時代中期から後期と推定されています。

伝来

写本に押された蔵書印から、過去に複数の著名人が所有していたことが分かっています。

青木信寅（函館控訴院裁判長）：明治時代の裁判官。1891年没。
松方巌（松方正義の長男）：第4代内閣総理大臣松方正義の長男、銀行家。
山岸徳平：国文学者。

山岸徳平の死後（1987年）、蔵書は「山岸文庫」として実践女子大学に寄贈され、現在も同大学図書館に所蔵されています。

内容

分冊状況

公条本は全25冊54帖で構成されています。各帖の構成は以下の通りです。（詳細な帖名リストは省略）

(帖名リストは省略)

本文

本文の内容は、花散里巻を除いて青表紙本系統に属し、三条西家本系統と共通点が多いです。ただし、一部に独特な本文も見られます。従来、大島本にのみ見られるとされていた孤立した本文が、本写本や、同じく山岸文庫所蔵の明融本にも存在することが確認されています。これは、校異源氏物語などの校本作成における写本選択の偏りによる可能性を示唆しています。

影印本や翻刻本は存在せず、主要な校本にも採用されていません。

注釈

本文には、墨書による書き入れ注記が多数見られ、朱筆による合点や句点も全帖にわたって施されています。注記の出典としては、『河海抄』『花鳥余情』『細流抄』『尭空』『紹永説』『宗聞』『源語類字抄』などが確認されています。

影印・翻刻

公条本の一部は、横井孝氏によって影印と翻刻が発表されています。

影印：「実践女子大学文芸資料研究所 年報」第18号（1998年）
* 翻刻：「論叢源氏物語 1 本文の様相」（1999年）

結論

公条本源氏物語は、その来歴や筆跡、本文の特徴などから多くの謎を残す写本です。しかし、青表紙本系統の本文を伝える貴重な資料であり、今後の研究によって、源氏物語本文の成立過程や伝播過程を解明する上で重要な役割を果たす可能性を秘めています。 保存状態の悪さや、影印・翻刻が限定的である点が課題ではありますが、学術的な価値は高く評価できます。 今後の研究による更なる解明が期待されます。

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