典拠管理

典拠管理とは

図書館情報学や資料組織論における典拠管理（authority control）とは、書誌情報に含まれる著者名、件名、その他の概念に対し、一貫性のある見出しや識別子を付与し、相互参照を可能にする情報（典拠ファイル）を維持・管理する手法です。これは、図書目録の作成と提供に関する仕組みである書誌コントロールと密接に関連しており、構造化された知識ベースとして図書館外の分野でも応用されています。

概要

図書目録は、かつては紙のカード形式でしたが、現在ではオンライン目録（OPAC）として提供されています。図書目録には、資料を検索する機能だけでなく、特定の著者の著作を網羅的に示す機能も求められます。しかし、同一の著者でも資料によって異なる表記がなされることがあり、例えば、「ウィリアム・シェイクスピア」という著者名だけでも、「Shakespeare, William」、「W.シェイクスピア」、「沙士比阿」など様々な表記が存在します。これらの表記を全て関連付け、適切に管理しなければ、目録は本来の機能を果たすことができません。

そこで、著者や主題に対して一意に設定された「標目」を設定し、その他の別名（参照形）を典拠レコードとして管理します。例えば、国立国会図書館が提供する『Web NDL Authorities』では、標目を「姓, 名, 生年-没年」という形式で作成し、著者識別に必要な生没年等の情報や、出典となった資料の書誌情報を記録しています。また、他機関が運営する典拠ファイルとのリンクも記録し、相互運用性を高めています。

典拠レコードは、個人名だけでなく、団体名や地名など、様々な名称に対して作成されます。このような典拠ファイルを「名称典拠 (name authorities)」と呼びます。一方、「件名」を扱うものとして、概念や主題を扱う「主題典拠 (subject authorities)」があります。主題典拠では、対象の範囲や概念間の関係性（同義語、上位・下位概念など）を把握し、オントロジーに基づいた統制語彙を用いて構築されます。例えば、「ガラス」という主題に関する典拠レコードでは、上位語や下位語、同義語とのリンクが示され、概念間の包含関係をカバーします。こうして構築された主題典拠は、人工知能やエキスパートシステムが利用する知識ベースと似た性質を持ち、相互発展を促します。著名な主題典拠ファイルとして、『米国議会図書館件名標目表 (LCSH)』があります。

アクセスポイント

従来のカード目録では、標目がデータの整理と配列に直結していましたが、デジタル化された目録では、利用者は標目だけでなく参照形からも資料を検索します。そのため、「書誌データや典拠データを検索・識別する名称、用語、コード等」を総称してアクセスポイントと定義する考え方が生まれました。この立場からは、典拠形と参照形のリストの管理よりも、多数のアクセスポイントとそのリンクの管理が重要になります。この考え方は、「アクセスコントロール (access control)」と呼ばれることもあります。典拠形を一意に定めることが難しい場合や、名前の表記に政治的・社会的な意味合いが含まれる場合など、この考え方は特に有益です。

協調的管理

従来、書誌データや典拠ファイルは図書館ごとに管理されていましたが、近年では国家単位でのデータ統合が進んでいます。日本では、国会図書館が『日本全国書誌』を刊行しており、『Web NDL Authorities』を通じて、個人名、団体名、地名などの典拠ファイルを提供しています。また、2003年には、世界規模の典拠ファイルを構築する『バーチャル国際典拠ファイル (VIAF)』が開始され、多くの国立図書館や文献サービスが参加しています。VIAFでは、各国で付与された識別子を保持したまま、VIAF独自の識別子を付与することで、各国の典拠ファイルを横断的にリンクしています。これにより、例えばシェイクスピアのNDLレコード中のVIAFへのリンクから、他の国の典拠ファイルにアクセスすることが可能になります。

メリットとデメリット

典拠管理によって得られるメリットは以下の通りです。

利用者にとっての利便性の向上: 資料の検索が容易になり、関連文献を一覧できます。また、典拠ファイル自体が簡易な事典としての役割を果たし、著者や団体の情報、主題に関する知識を得ることができます。
図書館運営の効率向上: 典拠ファイルが提供する構造化された情報は、図書目録を整備する側にとっても有益な情報となります。
セマンティック・ウェブへの貢献: 機械可読な形でオンライン提供される典拠ファイルは、セマンティック・ウェブの進展に貢献し、図書館業務を超えた活用が期待されます。

一方、典拠管理には以下のようなデメリットも存在します。

作業負担とコスト: 典拠管理には膨大な作業負担とコストがかかります。特に、オンライン資料の増加により、管理対象は爆発的に増大しています。
相互運用性の確保: 多くの機関が連携するためにはシステムの相互運用性が不可欠ですが、図書館目録が各館で完結していた経緯から、データ共有には課題が残ります。
データベースの完璧性: 典拠管理が有効に機能するには、データベースが完璧に近い形である必要があり、初期労力が大きいです。また、出版や情報流通の変化に伴い、データベースに求められる特性は常に変化し続けるため、情報の網羅は現実的に不可能に近いという課題もあります。しかし、それでもなお情報を整理し続けることは、現代の図書館が担うべき重要な任務です。

典拠管理は、図書館における情報組織化の中核をなす概念であり、利用者の利便性向上だけでなく、知識の体系化や共有化にも大きく貢献するものです。

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