円筒分水

円筒分水とは

円筒分水は、農業用水などの水を正確に分配するために用いられる利水施設です。円筒状の構造をしており、中心部から湧き出た水が外周部を越流する際に、設けられた仕切りによって一定の割合で分割される仕組みを持っています。地域によっては円形分水、円筒分水槽、円筒分水庫などとも呼ばれ、土木工事分野では「円筒分水工」という名称で呼ばれます。

円筒分水は、単なる利水施設としてだけでなく、その美しい見た目から地域の観光資源としても活用されています。

構造

円筒分水の構造は、主に2つの方式があります。

1つは、サイフォンの原理などを利用して円筒の中心部に水を導き、その水が外縁部を越流する際に、外縁部に設けられた仕切りによって分配する方式です。もう1つは、外縁部に設けられた穴の数によって分配する方式です。

特に、外縁部を越流させる構造の場合、外縁部に設けられた仕切りの間隔とその比率によって、水が正確に分配されます。仕切りの間隔がそのまま分水比を示すため、分配される水量が外観から把握でき、流量を勝手に変更するような不正が行われにくいという特徴があります。

歴史

農業用水の厳正な管理と配分は、古くから世界中で重要な課題でした。日本でも、水田耕作が主体であったことから、各地で農業用水の確保にまつわる紛争が絶えませんでした。

大正時代になると、正確な配水が可能な分水樋が考案され、各地で似た構造の施設が造られるようになりました。その中で、1914年（大正3年）に可知貫一が発明した円筒分水工が、最初の円筒分水工とされています。

当初は高低差を利用して導水する方式が主流でしたが、1934年（昭和9年）になると、地下から吹き上げる方式のものも登場しました。しかし、長野県に造られた施設では円筒を使わず、分水樋の中央に吹き上げられた水が放射状に拡がる原理を利用したため、流水量に偏りが生じるといった欠点がありました。

これらの欠点を克服するため、円筒状に組んだコンクリート設備の中心にサイフォンの原理で導水し、円筒を越流させて分水する方式が考案されました。この方式を採用したのが、1941年（昭和16年）に造られた神奈川県川崎市高津区久地にある久地円筒分水です。この方式によって、平地の用水路でも正確な分水が可能となり、以降、同様の方式の円筒分水が全国各地に造られるようになりました。

現存する円筒分水

現在も多くの円筒分水が稼働しており、その中には文化財として登録されているものもあります。以下に、主な円筒分水を紹介します。

初期

疣岩円形分水工（宮城県刈田郡蔵王町）：1931年（昭和6年）完成。土木学会選奨土木遺産に認定されています。
四ヶ堰円筒分水（長野県塩尻市）：1934年（昭和9年）完成。
音無井路十二号分水（大分県竹田市）：1934年（昭和9年）完成。
烏嶽円形分水（大分県豊後大野市緒方町）：1938年（昭和13年）完成。
西天竜幹線水路円筒分水群（長野県上伊那郡箕輪町、南箕輪村、伊那市）：1939年（昭和14年）完成。
二ヶ領用水久地円筒分水（神奈川県川崎市高津区）：1941年（昭和16年）完成。国の登録有形文化財です。
横井清水（長野県伊那市）：完成年不明。1895年（明治28年）発見の地下水脈からの湧水の分水施設。
練部屋分水所（兵庫県神戸市西区）：現在の円筒形状は1959年（昭和34年）完成。

現代

貝田新円筒分水槽（富山県魚津市貝田新）と東山円筒分水槽（富山県魚津市東山）：1955年（昭和30年）完成。東山円筒分水槽は「日本一美しい円筒分水槽」といわれ、国の登録有形文化財に登録されています。
今市用水円筒分水井（栃木県日光市）：1954年（昭和29年）完成。スリット溢流式で、湧水のような様子から「分水井」と呼ばれています。
釈泉寺円筒分水槽（富山県中新川郡上市町釈泉寺）：1954年（昭和29年）完成。水路がウォータースライダーのようになっているのが特徴で、国の登録有形文化財です。
南砺市赤祖父円筒分水（富山県南砺市川上中）：1949年（昭和24年）完成。富山県内最古の円筒分水で、国の登録有形文化財です。
通潤用水小笹円形分水（熊本県上益城郡山都町）：1956年（昭和31年）完成。通潤橋の取水口から数百メートル下流にあります。
胆沢平野の円筒分水工（岩手県胆沢川流域）：1957年（昭和32年）完成。農業用としては日本最大級です。
安積疏水（白江幹線）（福島県須賀川市泉田）：完成年不明。安積疏水の末端水路白江幹線の分水施設です。
滝の頭円形分水工（秋田県男鹿市五里合）：1962年（昭和37年）完成。上水道と農業用水に分配されています。
長野堰用水円筒分水堰（群馬県高崎市江木町）：1962年（昭和37年）設置。

まとめ

円筒分水は、農業用水を公平に分配するための重要な施設であり、その美しい景観から観光資源としても注目されています。日本各地に現存する円筒分水は、それぞれの歴史と特徴を持ち、地域の文化や生活を支えています。

関連情報

用語: 用水路、灌漑、分水
人物: 可知貫一
外部サイト:
宮城の円筒分水工 | 水土里ネットみやぎ - 宮城県土地改良事業団体連合会のサイト
円筒分水ドット・コム
レファレンス協同データベース

参考文献

『とやまの文化財百選シリーズ(6) とやまの近代歴史遺産』（富山県教育委員会 生涯学習・文化財室）

もう一度検索