写真湿板

写真湿板（コロジオンプロセス）

概要

写真湿板とは、1851年にイギリスのフレデリック・スコット・アーチャーが開発した写真術に関連する感光材料の一種です。この技術はヨウ化物を含むコロジオンを無色透明ガラス板に塗布し、硝酸銀溶液に浸すことでヨウ化銀の感光膜を生成することから始まります。湿板は、撮影が完了するまで湿った状態を保つ必要があり、現像工程には硫酸第一鉄溶液やシアン化カリウム溶液を使用します。この方法により生成されたネガティブ像がプリントとしても機能しました。

発明の背景

アーチャーによる湿板技法は、当時のダゲレオタイプやカロタイプに比べていくつかの利点を持っていました。まず、感度が高く（ISO感度1相当）、露光時間がわずか5秒から15秒と非常に短いことに加え、制作コストが非常に安価であったため、広く普及することとなりました。これにより、湿板技法は短期間で他の技術に取って代わる形で普及しました。湿板は、撮影とプリントの両方を1枚のガラスによるものとしたため、1枚の撮影が限界であったものの、質の高さと手軽さから多くの写真家に重宝されました。

影響と展開

湿板カメラの登場は、写真家たちが世界中の様々な場所を撮影するきっかけとなりました。ロンドンの水晶宮から、日本や中国の風俗、クリミア戦争、アメリカ西部の風景に至るまで、様々な歴史的瞬間が記録されました。また、ナダールによる世界初の空中写真も湿板プロセスによって撮影されたとされています。こうした傾向は、持ち運びやすさを求める姿勢から、箱型カメラが徐々に蛇腹式カメラに取って代わることにも繋がりました。

さらに、この時期にはフィールドカメラ、スタジオカメラなど多種多様なカメラが開発され、撮影のスタイルや技術も進化しました。また、さまざまなサイズのカメラが生まれ、大判のカメラなども登場しました。その中でもジョン・キッブルやジョージ・R・ローレンスが作成した巨大なカメラは、今日でもその規模の大きさで知られています。

日本における湿板技術

日本において湿板技術は早くも1860年代に導入されました。上野彦馬や下岡蓮杖がこの技術を日本に持ち込み、1862年にはそれぞれ写真館を開業し、国初の営業写真家となりました。特に上野彦馬は、西南戦争の戦場において湿板を利用して数々の重要な写真を残し、戦場カメラマンとしての地位を確立しました。彼の作品は、後に温泉地や城の再建の際に貴重な資料となりました。

湿板技術は、当初は輸入されたカメラが主流でしたが、次第に日本国内でも製造されるようになりました。明治中期まで普及しましたが、1871年に写真乾板が発明されると、湿板はその役目を終え、ほとんど使用されなくなる時代に入りました。湿板によって日本の写真技術が確立され、その後の発展へと繋がっていったことは間違いありません。

結論

写真湿板はただの技術革新ではなく、写真の概念を根本から変え、さらなる創造的表現の道を切り開いた歴史的な技法です。この技術の発展は、写真を芸術と整合させる大きな一歩となり、今後も多くの人々に影響を与え続けることでしょう。

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