冢田大峯

冢田大峯（つかだ たいほう）

冢田大峯は、江戸時代後期の儒学者であり、折衷学派に属し、尾張藩の儒臣として活躍しました。 延享2年（1745年）に信濃国で生まれ、天保3年（1832年）に88歳で没しました。

生涯

大峯は、信濃国水内郡長野村（現在の長野県長野市）で、儒医兼漢学者である塚田旭嶺の四男として生まれました。幼少期から読書を好み、父から経書と史書を学びました。16歳で江戸に出ると、増上寺で一切経を3度読破したと伝えられています。苦学の末、独自の学問を確立し、諸家の注釈を折衷した経典解釈で名声を博しました。国学は賀茂眞淵に学びましたが、儒学には特定の師を持たなかったとされます。

23歳で父と死別した後、25歳で弟子を取り始め、その学才は次第に認められていきました。特に、著書『解慍』（1775年）は高い評価を受け、天明元年（1781年）には細井平洲の紹介で尾張藩主徳川宗睦の侍講に抜擢されました。41歳の時に江戸で私塾「雄風館」を開き、多くの門弟を育成しました。

寛政の改革においては、松平定信が朱子学を正学としたことに対し、古学の重要性を説き、朱子学一辺倒の学問を批判しました。亀田鵬斎、山本北山らと共に「寛政の五鬼」と称され、その思想は広く知られるようになりました。また、『滑川談』を出版し、定信の倹約令を批判したことも有名です。

文化8年（1809年）には、藩主に従って名古屋に移り、藩学「明倫堂」の督学（校長）に就任しました。ここでは、幕府が正学としていた朱子学の注釈本を用いず、自注による講義を行い、学制改革に尽力しました。文政元年（1818年）には藩主の命令により名古屋に定住することとなりました。

大峯は、藩学で20年以上にわたり督学を務め、多くの学者を育てました。天保3年（1832年）、名古屋の自宅で卒中のため88歳で死去しました。晩婚ながら、四男二女をもうけました。なお、尾張藩士の渡辺三郎兵衛美綱の三男が養子となり、冢田有志と名乗って大峯の跡を継ぎましたが、青松葉事件により処刑されました。

明治時代には、高瀬代次郎が『信濃毎日新聞』に大峯の伝記を連載し、後に『冢田大峯』として出版されました。昭和28年（1953年）には、大峯没後120年祭が開催され、その功績が称えられました。

学問と著述

大峯の学問は、諸家の解釈を折衷する折衷学派に属し、独自の解釈による経典研究に特徴があります。その著作は50種200冊以上にも及び、以下に主なものを年代順に示します。

『学庸字解』
『論語講録』
『解慍』（1775年）
『孝経』
『大学註』
『中庸註』
『冢註孝経』（1778年）
『冢註孔叢子』（1778年）
『冢註論語』（1784年）
『冢註六記』（1787年）
『聖道合語』（1788年）
『孟子断』（1789年）
『皇極和談』
『孝経和字訓』
『滑川談』（1791年）
『聖道得門』（1792年）
『冢註家語』
『大峯詩集』
『学語』（1794年）
『聖道弁物』（1796年）
『老子道徳経』（1803年）
『昇平日新録』（1807年）
『李伯紀忠義編』（1810年）
『冢註周易』（1820年）
『昼錦行』（1821年）
『随意録』（1829年）
『入官第一義』

これらの著作を通じて、大峯の学問と思想を知ることができます。

参考文献

高瀬代次郎著『冢田大峯』（1919年 光風館）
『大日本人名辞書』（1884年 経済雑誌社）

外部リンク

高瀬代次郎 著『冢田大峰』,光風館書店,大正8. 国立国会図書館デジタルコレクション


冢田大峯は、その学識と行動力で、江戸時代の儒学界に大きな影響を与えた人物です。

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