刑法官

刑法官（けいほうかん）

刑法官は、明治政府初期の官制を定めた政体書に基づく太政官制において、司法を担当した機関です。

概要

明治政府が発足した当初の国家体制は、総裁、議定、参与の三職の下に、神祇、内国、外国、海陸、会計、刑法、制度の七科が置かれるというものでした（三職七科制）。その後、総裁局が追加され、八局体制（三職八局制）へと移行しました。

このうち、七科制における刑法事務科の長官である事務総督、そして八局制における刑法事務局は、「監察弾糺捕亡断獄諸刑律ノ事ヲ督ス」という職掌を担っていました。これは、監察、糾弾、逮捕、裁判など、刑法に関する様々な事務を監督することを意味します。

1868年6月11日（閏4月21日）に制定された政体書では、「天下ノ権力総テコレヲ太政官ニ帰ス」と定められ、権力が太政官に集中されました。その上で、「太政官ノ権力ヲ分ツテ立法行法司法ノ三種トス」と規定し、太政官の権力を立法・行政・司法の三つに分立させる制度が採用されました。太政官は議政官、行政官、神祇官、会計官、軍務官、外国官、そして刑法官の七官に分けられ、刑法官が司法を担当することになったのです。

刑法官の長官である知官事は、「総判執法守律監察糾弾捕亡断獄」という職掌を担い、刑法事務科および事務局と同様の機能を果たしました。その下には、監察司、鞠獄司、捕亡司が置かれました。

しかし、1869年（明治2年）5月22日に弾正台が設置されると同時に、監察司は廃止されることになります（明治2年5月22日太政官達「弾正台ヲ置キ刑法官中監察司ヲ廃ス」）。これにより、監察や糾弾に関する事務は、刑法官から弾正台へと引き継がれました。

同年7月8日に職員令が制定されると、刑法官は廃止され、二官六省制における刑部省へと移行することになりました。

参考文献

浅古弘、伊藤孝夫、上田信廣、神保文夫編（2010）『日本法制史』青林書院
伊藤孝夫（2023）『日本近代法史講義』有斐閣
大庭裕介（2020）『司法省と近代国家の形成』同成社
川口由彦（2014）『日本近代法制史　第2版』新世社
山口亮介（2015）「明治太政官制復古と刑法事務課・事務局、刑法官、刑部省の形成」北九州市立大学法制論集第42巻第2・3・4合併号

関連項目

司法省
* 日本法制史

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