前千年王国説

前千年王国説とは

前千年王国説（ぜんせんねんおうこくせつ、英: premillennialism）は、キリスト教における終末論の重要な立場の一つです。この説は、イエス・キリストが黙示録20章に記述されている千年王国に先立って、文字通り栄光の体をもって再臨すると考えます。そのため、千年期前再臨説とも呼ばれます。

この名称は、キリストの再臨が千年王国の前に起こるという点に由来し、後千年王国説や無千年王国説とは異なる立場を取ります。再臨の具体的な内容や、それに伴う出来事の順序については様々な見解がありますが、前千年王国説を支持する人々は、千年王国がキリストの再臨後、世の終わりの前に実現するという点で共通認識を持っています。

歴史

前千年王国説は、教会の初期3世紀において、ローマ帝国による迫害下にあったキリスト者たちにとって、大きな励ましと慰めとなりました。エイレーナイオスやテルトゥリアヌスといった神学者たちがこの説を支持しました。

しかし、150年頃には、モンタヌス主義という過激な主張と前千年王国説が結び付けられることもありました。また、聖書の寓喩的解釈を推奨したオリゲネスやエウセビオスは、無千年王国説を主張しました。

アウグスティヌスは、当初前千年王国説を支持していましたが、後にこの説を採る人々の過激な行動に反発し、象徴的・神秘的な解釈へと移行しました。彼は、黙示録20章の「千年」をキリストの初臨から再臨までの期間とし、千年王国を地上の教会を指すものと解釈しました。この解釈は、現代の無千年王国説の基礎となり、中世を通じてローマ・カトリック教会の公式見解となりました。

中世には、ミュンスターの反乱のような急進的な革命運動の指導者たちが前千年王国説を採用しました。宗教改革者のルターやカルヴァンは、千年期の黙示録的解釈には懐疑的でしたが、聖書の文字通りの解釈を主張し、教皇を反キリストと見なすなど、終末が近いことを強調しました。

17世紀に入ると、終末論の研究が進展し、ヨーハン・ハインリヒ・オルステッドとジョウゼフ・ミードという2人の改革派神学者が前千年王国説を主張しました。彼らは黙示録を象徴的、比喩的に解釈せず、最後の審判の前に地上に神の国が樹立されると解釈しました。しかし、イギリスでステュアート王朝が復興すると、前千年王国説は一時的に衰退しました。18世紀には、J・A・ベンゲルがその解釈を引き継ぎましたが、この時期には前千年王国説に代わって、後千年王国説が台頭しました。

19世紀には、再び前千年王国説が勢いを盛り返しました。この時代には、ディスペンセーション主義という新しい見解が登場し、前千年王国説に新たな要素を加えました。アメリカでは南北戦争後、ディスペンセーション主義が急速に広まりましたが、カルヴァン派の神学者たちは無千年王国説を支持し、進化論の影響を受けた後千年王国説も広まりました。

20世紀に入ると、二度の世界大戦を経て、楽観的な進歩主義の哲学が衰退し、前千年王国説が現実味を帯びて注目されるようになりました。

日本では、1919年にホーリネス教会の指導者である中田重治と、無教会の内村鑑三らが前千年王国説に基づいて再臨運動を展開し、日本の教会に大きな影響を与えました。しかし、主流派の海老名弾正らは反対集会を開き、キリストの文字通りの再臨を否定する見解を展開しました。

太平洋戦争後には、アメリカの宣教団体によって設立された、いのちのことば社や聖書図書刊行会が、ハル・リンゼイらのディスペンセーション主義的な終末論の書籍を翻訳出版し、日本の教会の終末観に大きな影響を与えました。また、高木慶太が「近づいている人類の破局」「これからの社会情勢と聖書の預言」などの著作で、ディスペンセーション主義の前千年王国説を説きました。

ディスペンセーション主義の前千年王国説

ディスペンセーション主義では、ジョン・ネルスン・ダービらの解釈に基づき、聖書全体を七つの聖約期（ディスペンセーション）に分け、千年期を最後の七番目の王国ディスペンセーションと結び付けます。

解釈法

この見解は、極端な字義通りの聖書解釈と、イスラエルと教会を明確に区別して考えるという解釈に基づいています。

主張

キリストは初臨の際に、旧約聖書でダビデに約束されたイスラエルのための王国を提供しましたが、ユダヤ人はメシアであるイエス・キリストとその王国を拒否しました。その代わりに、異邦人の時代である教会時代が挿入されました。しかし、再臨の際に、再びダビデの王国をイスラエルのために回復されます。千年王国はイスラエルのための国であるため、教会はそこに招かれた客となります。また、患難時代はイスラエルに下る怒りの時であるため、教会は患難に遭うことなく、その前に空中に引き上げられるという患難期前携挙説を支持しています。

支持する神学者

ジョン・ネルスン・ダービ
サイラス・インガスン・スコフィールド
高木慶太

歴史的前千年王国説

この見解は字義通りの解釈に基づいていますが、ディスペンセーション主義ほど字句の表面的な意味にこだわりません。

解釈法

比喩的、象徴的に解釈されるべき箇所は、あくまで文章表現上の技法として理解されます。例えば、「人の子が雲に乗って来るのを見る」という表現において、「雲に乗って」は比喩的な表現ですが、「来る」と「見る」は実際に文字通り起こると考えられます。

主張

歴史的前千年王国説は、ユダヤ民族を神の救いの計画の目的ではなく、手段として捉えます。救いの計画そのものは全人類を対象としており、その達成の過程でユダヤ民族が選ばれ、特定の役割を果たしたと考えます。千年王国はキリストが支配するキリストの王国であり、ダビデの王国の回復ではありません。この世はサタンが支配する王国であり、それに対して、来るべき新天新地は天の父の御国です。その間の過渡的な段階において、地上にキリストの千年王国が確立され、その千年王国において、信仰者が願ってきた正義と平和の完全な実現が達成されると考えます。

支持する神学者

リチャード・C・トレンチ
J・A・サイス
ヘンリー・シーセン（Henry Thiessen）
メリル・テニイ
ミラード・J・エリクソン

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