前川善兵衛

前川善兵衛とは

前川善兵衛（まえかわ ぜんべえ）は、江戸時代に吉里吉里（現在の岩手県大槌町吉里吉里）を根拠地とした商人であり、網元です。屋号は東屋孫八、通称は吉里吉里善兵衛として知られています。長く盛岡藩の御用商人を務め、その名を歴史に刻みました。

前川家の始まり

前川家の祖は、戦国時代に後北条氏に仕えた清水富英に遡ります。富英は相模国前川邑（現在の神奈川県小田原市前川）に領地を与えられていましたが、小田原征伐で後北条氏が没落すると、奥州・気仙浦へと逃れました。その後、富英の子である富久の代に吉里吉里へ移住し、旧領にちなんで前川と改姓しました。富久の子、富永から代々「善兵衛」を名乗り、廻船問屋、網元、酒・味噌醸造と事業を拡大し、盛岡藩の御用商人として大いに栄えました。盛岡藩に多額の融資を行う一方で、十分の一税を免除されるという特権も得ていました。

盛衰

しかし、1753年（宝暦3年）、4代善兵衛富昌の時代に、盛岡藩が江戸幕府から日光東照宮の修復を命じられると、藩は領内の豪商に費用を供出させ、前川家も7500両という巨額の出費を余儀なくされました。さらに、宝暦の飢饉では、蔵を開いて3万2千人もの人々へ雑穀を振る舞いましたが、追い打ちをかけるように盛岡藩から献金を要求され、これにより前川家の家運は徐々に傾き始めました。

6代善兵衛富長は、測量のために訪れた伊能忠敬を接待したという記録が残っています。しかし、本業である海運業では船を難破で失うなど苦境が続き、前川家は豪商としての勢いを失い、次第に漁業へと専念するようになっていきました。

前川善兵衛家文書

1950年、前川家が所蔵していた古文書（『前川善兵衛家文書』）が水産庁によって買い取られました。この文書は、草創期の1630年（寛永7年）から1917年（大正6年）までの約4700点に及ぶもので、江戸時代の漁業や水産物流通の実態を伝える貴重な史料群として、水産庁によって高く評価されています。

歴代当主

前川家は、以下の当主によって受け継がれてきました。

初代：甚右ェ門富久（ - 1677年 延宝5年）
吉里吉里浦に移住してからの初代。常陸方面の貿易商との関係があり、海産物を扱っていました。
2代：善兵衛富永（1638年 - 1709年 宝永6年）
前川家を不動のものとした興基の祖。藩に930両も貸していたほどの貿易商で、後にそれを全額藩に返納し、交易船200石分の御免責証文を貰う。この代から苗字帯刀を許される。
3代：善兵衛助友（1678年 - 1746年 延享3年）
代官所下の地方侍だったが、元文3（1738年）、父の隠居と共に家業を継ぎました。
4代：善兵衛富昌（1691年 - 1763年 宝暦13年）
野田の中野勘右ェ門という給人の家から養子となり、助友の跡を継ぎ善兵衛を襲名しました。
5代：善兵衛富能（1723年 - 1801年 享和元年）
6代：善兵衛富長（1772年 - 1843年 天保13年）
7代：善十郎富命（1785年 - 1830年 文政13年）
8代：善兵衛富壽（1812年 - 1884年 明治17年）

関連事項

前川善兵衛に関連する以下の項目も参照してください。

吉里吉里人
吉祥寺 (岩手県大槌町))
小鎚神社
大槌稲荷神社

外部リンク

* 中央水産研究所 史料群番号　7　前川善兵衛家文書

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