前方後方墳

前方後方墳とは

前方後方墳（ぜんぽうこうほうふん）は、古墳時代に築造された墳墓の一種であり、上から見ると、前方部が矩形、長方形、または台形をしており、後方部が方形をしているという特徴を持っています。この独特な形状は、弥生時代後期に発生した前方後方形墳丘墓が変化して成立したと考えられています。

前方後方墳の起源と変遷

前方後方墳のルーツは、弥生時代後期末に現れた前方後方形墳丘墓にあります。初期の前方後方墳は、主に東日本（東海・関東地方）で古墳時代前期に多く造られました。特に、愛知県一宮市の西上免遺跡で発見された前方後方形墳丘墓は、墳丘長約40メートルにも及び、この地域が前方後方墳成立に重要な役割を果たしたと考えられています。弥生時代終末期には、方形墓に突出部が設けられるようになり、それが発展して前方後方墳になったとされています。

前方後方墳の分布と規模

日本列島には約500基の前方後方墳が存在すると言われています。その規模は様々ですが、墳丘の長さが70メートルを超えるものは34基あり、特に大和地方（現在の奈良県）に多く集中しています。最大規模の前方後方墳は、奈良県天理市の西山古墳で、全長180メートルにも及びます。また、東日本では、下野（現在の栃木県）に大規模なものが多く見られます。

地域ごとの分布の特徴

東日本: 東海地方や関東地方に多く、初期の古墳によく見られます。特に、栃木県には数多くの前方後方墳が存在しています。
中国・四国地方: この地域にも多く、特に島根県出雲地方に集中しています。出雲地方の前方後方墳は古墳時代を通じて築かれた点が特徴です。
九州地方: 散発的に分布しており、比較的少ないです。

前方後方墳に関する諸学説

前方後方墳と前方後円墳の違いについては、様々な学説が提唱されていますが、まだ十分に解明されていません。主な学説としては、以下のようなものがあります。

身分秩序説: 西嶋定生は、墳形が身分秩序を示し、前方後方墳は特定の身分を表すとしました。
政治秩序説: 都出比呂志は、前方後方墳が前方後円墳体制の中で少数派的な存在であるとしました。
狗奴国系譜説: 白石太一郎は、前方後方墳を狗奴国（『魏志』倭人伝に記述のある国）の系譜と結び付けました。
* 東海地方起源説: 赤塚次郎らは、前方後方墳の起源を東海地方に求めました。

また、広瀬和雄は、墳丘規模や副葬品の違いから、前方後円墳と前方後方墳の違いは単なる「首長層の政治的なランク付け」の反映であると主張しています。

地域ごとの前方後方墳の特徴

東海地方

美濃・尾張・伊勢・三河などの濃尾平野を中心とする地域では、前方後方墳は36基確認されています。しかし、前方後円墳の方が多く、墳丘の長さ80メートルを超えるものは少ないです。この地域では、古墳時代前期には墳形や規模による身分秩序が徹底されていなかったと考えられています。外表施設としては、葺石が見られますが、埴輪はほとんど見られません。

中国・四国地方

この地域では、前方後円（方）墳が800基あるのに対し、前方後方墳は82基と少数派です。分布は、南西部に少なく、北東部、特に島根県出雲地方に集中しています。出雲地方では、古墳時代を通じて前方後方墳が築かれた点が特徴的です。

東北地方

宮城県の京銭塚古墳、山形県の天神森古墳、福島県の大安場古墳などが知られています。大安場古墳は東北地方最大の前方後方墳です。

関東地方

茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県に多くの前方後方墳が存在します。栃木県には、上侍塚古墳や下侍塚古墳のような大規模なものもあります。特に、下侍塚古墳は「日本で一番美しい古墳」とも言われています。

中部地方

新潟県、富山県、石川県、静岡県、山梨県、長野県、岐阜県に分布しています。静岡県の北岡大塚古墳は、この地域最古級の前方後方墳とされています。

近畿地方

三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県に分布しています。奈良県の西山古墳は、日本最大の前方後方墳であり、非常に特異な形をしています。

前方後方墳の形状

前方部の平面は、矩形、長方形、台形であり、祭礼が行われたと考えられています。後方部の平面は、方形で、棺が埋葬される埋葬部があります。

まとめ

前方後方墳は、古墳時代前期を中心に、東日本と中国・四国地方に多く見られる独特の墳形です。その起源や意味については様々な学説がありますが、地域や時代によって多様な特徴が見られます。前方後方墳は、当時の社会構造や政治体制を理解する上で重要な手がかりとなります。

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