前期チャールキヤ朝

前期チャールキヤ朝（またはバーダーミのチャールキヤ朝）は、6世紀中頃から8世紀中頃にかけて、インドのデカン地方、南インドを支配したヒンドゥー王朝です。この王朝は、後に成立する同名の王朝（東チャールキヤ朝、後期チャールキヤ朝）と区別するために、西チャールキヤ朝とも呼ばれます。

歴史

創始

543年頃、キールティヴァルマン1世が、南インドのカダンバ朝から独立し、カルナータカ州北部のバーダーミに拠点を築いたことが王朝の始まりです。

領土の拡大と一時的な衰退

キールティヴァルマン1世の息子であるプラケーシン1世とマンガレーシャは、周辺勢力との戦いに勝利し、領土を拡大しました。しかし、609年には、プラケーシン1世の子であるプラケーシン2世が、叔父のマンガレーシャを殺害して即位するという内乱が発生します。プラケーシン2世は、内乱を鎮圧した後、旧主であったカダンバ朝を滅ぼし、北はグジャラートやマールワー地方まで勢力を拡大します。さらに、当時北インドの覇者であったヴァルダナ朝のハルシャヴァルダナをナルマダー河畔で破り、南下を阻止しました。その後、南方の強国であったパッラヴァ朝のマヘーンドラヴァルマン1世との戦いに勝利し、その領土の一部を併合、首都カーンチープラムに迫る勢いを見せました。東方にも勢力を伸ばし、アーンドラ地方を征服。弟のヴィシュヌヴァルダナにヴェーンギー周辺の東部アーンドラ地方を治めさせました。このヴィシュヌヴァルダナは後に独立し、東チャールキヤ朝の祖となります。

プラケーシン2世は外交にも力を入れ、サーサーン朝ペルシャとの間で使節を交換するなど、国際的な関係を築きました。これは、北インドの勢力に対抗する意味合いもあったと考えられます。641年には、唐の僧である玄奘がこの地を訪れ、その著書『大唐西域記』で、この地の肥沃さや、兵士の勇敢さ、忠誠心を記述しています。特に、戦闘時に兵士に酒やアヘンを振る舞い、象に乗って突撃させた様子や、敗戦した将軍に女性の服を着せるという罰についても記録しています。当時の兵士にとって、女性の服を着せられることは、死刑以上の屈辱とされていたようです。

プラケーシン2世の支配はデカン地方全体に及びましたが、642年、パッラヴァ朝のナラシンハヴァルマン1世との戦いで敗北し、命を落としました。バーダーミも占領され、王朝は一時的に滅亡の危機に瀕します。

王朝の再興と強勢

プラケーシン2世の息子であるヴィクラマーディティヤ1世は、655年にパッラヴァ朝を打ち破り、バーダーミを奪還、王朝を再興しました。彼はパッラヴァ朝の領土にも侵攻し、673年には首都カーンチープラムを包囲しました。第7代のヴィジャヤーディティヤの治世は、王朝が最も安定し繁栄した時代とされています。8世紀に入り、ヴィクラマーディティヤ2世の時代には、ウマイヤ朝の南下を阻止し、パッラヴァ朝の首都カーンチープラムを三度も占領しました。

建築文化の発達

ヴィクラマーディティヤ2世は、パッラヴァ朝の高度な建築文化に感銘を受け、建築家グンダを招聘し、南部の石工や職人を集めて、パッタダカルに多くのヒンドゥー寺院を建設しました。パッタダカルの寺院群は、パッラヴァ朝の影響を強く受けており、柱や天井、壁画には、『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』などの物語が彫刻されています。特に、ヴィクラマーディティヤ2世の妃ローカ・マハーデーヴィーが、夫の戦勝を記念して建てさせたヴィルーパークシャ寺院は、エローラのカイラーサ寺院にも影響を与えたことで知られています。パッタダカルの寺院群は、1987年に世界遺産に登録されました。

滅亡

ヴィクラマーディティヤ2世の死後、息子のキールティヴァルマン2世が後を継ぎましたが、753年に有力な封臣であったダンティドゥルガ（ラーシュトラクータ朝の創始者）によって王位を奪われ、前期チャールキヤ朝は滅亡しました。チャールキヤ家はラーシュトラクータ朝の封臣となり、その地位から脱したのは、約2世紀後の973年にタイラ2世がラーシュトラクータ朝を滅ぼし、チャールキヤ朝を再興した時でした（後期チャールキヤ朝）。

歴代君主

キールティヴァルマン1世（在位：543年 - 566年）
プラケーシン1世（在位：566年 - 597年）
マンガレーシャ（在位：597年 - 609年）
プラケーシン2世（在位：609年 - 642年）
ヴィクラマーディティヤ1世（在位：655年 - 681年）
ヴィナヤーディティヤ（在位：681年 - 696年）
ヴィジャヤーディティヤ（在位：696年 - 733年）
ヴィクラマーディティヤ2世（在位：733年 - 744年）
* キールティヴァルマン2世（在位：744年 - 753年）

前期チャールキヤ朝は、その盛衰の中で、南インドの歴史と文化に大きな影響を与えました。特に、パッタダカルの寺院群は、当時の建築技術や文化を伝える貴重な遺産です。

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