パッラヴァ朝

パッラヴァ朝の興隆と変遷

パッラヴァ朝は、3世紀後半から897年まで、南インドのコロマンデル海岸を中心に栄えたタミル系の王朝です。首都はカーンチープラムに置かれ、その支配領域はセイロン島の一部にも及びました。この王朝の歴史は、周辺の勢力との興亡を繰り返しながら、独自の文化を花開かせた波乱に満ちたものでした。

王朝の起源

パッラヴァ朝の起源には諸説あり、パルティア、北インド、土着王朝のいずれにルーツを持つかは確定していません。初期の歴史は、プラークリットやサンスクリットで記された銅板銘文によって知られますが、内容には矛盾が多く、正確な年代や世系、中心地については研究者の間でも意見が分かれています。特に、4世紀から6世紀初頭の銘文に「カーンチー」という地名が登場しますが、これがアーンドラ地方の地名なのか、トンダイナードゥ地方のカーンチープラムを指すのか、議論が続いています。

初期の歴史

3世紀末から4世紀初めには、シヴァスカンダヴァルマンがカーンチープラムを都とし、広大な領土を支配しました。4世紀半ばには、ヴィシュヌゴーパがグプタ朝の軍に敗れ、5世紀半ばにはシンハヴァルマン2世が西ガンガ朝に宗主権を行使しました。交易も盛んに行われ、東ボルネオやジャワのヒンドゥー王国に影響を与えたという説もあります。ただし、近年では、この影響はカダンバ朝によるものとする見方が強まっています。

5世紀末以降、パッラヴァ朝はカラブラ朝の支配下に置かれ、一時的に歴史が不明瞭になりますが、6世紀後半のシンハヴィシュヌ王の登場によって再びその姿を現します。シンハヴィシュヌはカラブラ朝を打ち破り、領土を拡大し、パーンディヤ朝やセイロンの君主と対立しました。

前期チャールキヤ朝との抗争と繁栄

パッラヴァ朝の北には、前期チャールキヤ朝が勢力を拡大しつつありました。マヘーンドラヴァルマン1世の時代には、両王朝は激しく戦いました。一時はプラケーシン2世によってパッラヴァ朝は敗北し、領土の一部を奪われましたが、ナーラシンハヴァルマン1世の時代に、チャールキヤ朝の首都バーダーミを占領し、プラケーシン2世を討ち取るという劇的な復讐を果たしました。また、セイロンの王位継承問題にも介入しました。ナーラシンハヴァルマン1世の治世には、唐の僧侶である玄奘三蔵がカーンチープラムを訪れています。

しかし、チャールキヤ朝はヴィクラマーディティヤ1世によって復興し、パッラヴァ朝の勢力は後退を余儀なくされました。パラメーシュヴァラヴァルマン1世の時代にはカーンチープラムが一時陥落しましたが、決定的な打撃とはなりませんでした。続くナーラシンハヴァルマン2世の時代には再び繁栄を迎え、カイラーサナータ寺院や海岸寺院などの壮麗な寺院が建設され、海外貿易も活発に行われました。

次のパラメーシュヴァラヴァルマン2世の時代には、再びチャールキヤ朝の攻撃を受け、王が戦死するという悲劇に見舞われますが、後継者としてナンディヴァルマン2世が擁立され、パッラヴァ朝は存続します。その初期にはチャールキヤ朝による侵攻が続きましたが、後にラーシュトラクータ朝とは友好関係を築き、勢力を維持しました。

パーンディヤ朝との抗争と滅亡

パッラヴァ朝は、南方のパーンディヤ朝ともしばしば衝突しました。また、ラーシュトラクータ朝、西ガンガ朝、バーナ朝、そして台頭してきたチョーラ家とも複雑な関係を築きながら、抗争を繰り返しました。ナンディヴァルマン3世の時代には、西ガンガ朝と同盟してパーンディヤ朝に勝利しましたが、その過程でチョーラ家の勢力が拡大しました。最終的にアパラージタ王の時代に、チョーラ朝のアーディテイヤ1世によって滅ぼされました。

文化遺産

パッラヴァ朝の時代に建設されたマハーバリプラムの建造物群は、その優れた建築技術と芸術性を今に伝えています。特に、「5つのラタ」と呼ばれる石彫寺院や海岸寺院は、ユネスコの世界遺産に登録されており、当時の木造寺院の様式を石造りで再現したものです。また、パッラヴァ朝の寺院建築は、前期チャールキヤ朝の寺院建築にも大きな影響を与えました。

パッラヴァ朝は、南インドの歴史において重要な役割を果たした王朝です。その興亡の歴史は、周辺の王朝との関係や文化的な影響を通して、今日まで語り継がれています。

もう一度検索