孔安国

孔安国：前[[漢]]の学者と『尚書』研究

孔安国は、紀元前1世紀頃の前[[漢]]時代に活躍した学者です。孔子の十世の孫にあたる彼は、字を子国といい、魯国曲阜県に生まれました。父は孔忠、兄は孔武と伝えられています。呉音では「くあんごく」とも呼ばれます。

孔安国の学問的業績は、主に『尚書』の研究に集約されています。彼は、申公に師事して『魯詩』を学び、倪寛から『尚書』を学びました。その後、漢の武帝の時代に諫議大夫に任命され、博士を経て臨淮太守にまで上り詰めます。

彼の名を歴史に刻むこととなった重要な出来事が、景帝時代の末期に起こりました。魯の共王が宮殿拡張のため、孔子の屋敷を解体した際に、壁の中から『尚書』、『礼記』、『論語』、『孝経』など、数多くの古文書が発見されたのです。それらは、蝌蚪文字と呼ばれる古代文字で書かれており、一般には解読不可能でした。しかし、孔安国は、その才能と知識を駆使し、これらの古文書を現代の文字に読み解き、古文『尚書』を世に問うたのです。この功績により、彼は「古文」の学問を開拓した人物として高く評価されています。

孔安国の学問は、その後も脈々と受け継がれていきます。彼は「古文」の学を都尉朝、司馬遷、倪寛らに伝え、その学問は連綿と後世へと繋がっていきました。この学問の流れは、同じく古文で書かれていた『周[[礼]]』や『春秋左氏伝』などの発見とも合流し、「古文学」という新たな学問分野の勃興へと繋がったのです。

しかし、孔安国に関する研究において、常に議論の的となっているのが、『尚書』の「孔安国伝」の真偽問題です。現在、私たちが『五経正義』や『十三経注疏』を通して接している「孔安国伝」は、東晋の梅賾によって献上されたとされています。長らく本物とされてきたこの「孔安国伝」ですが、清代の閻若璩によって梅賾の偽作であると指摘されました。その後も、丁晏による魏の王粛の偽作説、日本の武内義雄による孔晁の作であるとする説など、様々な議論が展開され、現在では孔安国自身によるものではないという結論が一般的となっています。『論語集解』や『古文孝経』に引用される孔安国伝も、魏晋から六朝時代に作られた偽作と考えられています。

孔安国自身の著作としては、『古文孝経伝』、『論語訓解』、『孔子家語』などが伝えられています。彼の研究は、中国古典学に大きな足跡を残し、後世の学者たちに多大な影響を与え続けました。ただし、彼の著作や伝承に関する真偽については、現代においてもなお研究が続けられています。彼の業績を正確に理解するためには、これらの歴史的背景や学問的議論を理解することが重要です。彼の生涯と業績は、中国古典学の歴史を語る上で欠かせない重要な要素であり、今後も多くの研究者によって解明が続けられていくでしょう。

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