加役方人足寄場

加役方人足寄場（かやくかたにんそくよせば）とは

江戸幕府が設置した加役方人足寄場は、軽罪人や虞犯者（犯罪を犯す恐れのある者）を収容し、自立を支援するための施設です。一般には「人足寄場」という略称で知られています。特に、江戸の石川島に設置された人足寄場は、その画期的な取り組みと、当時の社会情勢を反映した施設として注目されています。この施設は、単なる懲罰施設ではなく、教育的かつ自立支援的な手法を取り入れた点が特徴的でした。しかし、その実態は現在の強制収容所にも近いものであり、多くの問題点も抱えていました。

沿革

人足寄場が設置される以前は、無宿者（住む場所のない者）を隔離し、更生させる対策として、佐渡金山での水替人足制度がありました。しかし、この制度は過酷な労働を強いるものであり、更生よりも懲罰としての側面が強かったのです。そこで、火付盗賊改方（現在の警察のような組織）の長官であった長谷川宣以（はせがわのぶため）、通称長谷川平蔵が、松平定信に犯罪者の更生を目的とした収容施設の設置を提案し、人足寄場が誕生しました。

石川島の人足寄場は、幕末まで存続しましたが、明治維新後に石川島徒場（とじょう）と改称されました。その後、何度か名称が変更され、1877（明治10）年には警視庁管轄下の石川島監獄署となり、現在の懲役刑を行う施設へと変わりました。東京の都市化が進むにつれて、石川島から巣鴨へ移転し、巣鴨監獄・巣鴨刑務所を経て、最終的には巣鴨拘置所となりました。この巣鴨拘置所は、東京裁判が行われた場所として知られる「巣鴨プリズン」のことです。その後、巣鴨刑務所はさらに府中市へ移転し、現在の府中刑務所となっています。かつての巣鴨刑務所跡地は、現在では池袋サンシャインシティとなっています。

年表
寛政元年（1789年）：長谷川宣以が松平定信に人足寄場の設置を建言。
寛政2年（1790年）：
2月19日：長谷川平蔵が加役人足寄場取扱を拝命。
2月28日：仮小屋が完成。
5月：初めての出所者が出る。
明治維新：人足寄場が廃止。

人足寄場は、「江戸幕府初の」「時には世界初の」更生計画・職業訓練専用施設として紹介されることがありますが、それより前の安永9年（1780年）には、江戸南町奉行の牧野成賢の提案により、深川茂森町に「無宿養育所」が設立されています。この養育所は、生活に困窮した放浪者を収容し、更生や仕事の斡旋を行う救民施設でした。享保の頃から、住む場所を失った無宿者が増加しており、それが犯罪の温床となっていました。養育所は、彼らを救済し、社会復帰を支援することで、犯罪を抑制することを目的としていましたが、逃亡者が多く、約6年で閉鎖されました。人足寄場は、この養育所の体制を立て直したものであり、その先駆けとなりました。

組織

人足寄場の初期には、火付盗賊改方の長官が所管していましたが、長谷川平蔵が退任した後は、町奉行所に属する人足寄場奉行という役職が新設されました。その下には、町奉行所から派遣された与力、同心、寄場差配人（模範的な人足の中から選ばれた保証人のような存在）、医師、心学の教師、船頭などがいました。運営資金が不足していたため、長谷川平蔵は幕府から資金を借りて銭相場に投資したり、大名屋敷跡地を商人に貸し出して借地料を運営資金に充当するなど、型破りな方法で資金を調達していました。

設備

人足寄場は、江戸の石川島（現在の東京都中央区佃2丁目付近）にありました。現在、佃公園には、後に寄場奉行が設置した石川島灯台が復元されています。石川島の他に、常陸国筑波郡上郷村（現在の茨城県つくば市上郷）、大坂、箱館（現在の函館市）にも設置されました。収容定員は数百人程度で、300人から400人ほどを収容していたとされています。施設内には作業所のほか、浴場や病室も設けられ、喫煙や煮炊き、暖を取るための炬燵も許されていました。

更生計画

人足寄場には、飢饉などで田畑を捨てて江戸に流れ着いた無宿者や、入墨、敲（むちうち刑）などの刑罰を受けた軽犯罪者が、約3年間収容されました。平松義郎氏の研究によると、1862年から1865年の間に、江戸で追放刑に処せられた15歳以上の男性庶民の約8割、入墨や敲刑を受けた者の約2割が人足寄場に収容されたとされています。また、女性（15歳以上）も、入墨や過怠牢舎（敲に相当する罪で牢屋に収監される刑罰）を受けた後に、合計7人が収容されています。

人足寄場では、生活指導や職業訓練を通じて、収容者の自立支援と再犯防止を目指していました。大工や建具製作の技能を持つ者には、その技能を訓練させ、技能のない者には、簡単な作業や土木作業を指導しました。現在の刑務所と同様に、労働に対する手当も支給されましたが、手当の一部は強制的に貯金され、出所時に更生資金として交付されました。また、生活指導として、月に3回、心学（神道、仏教、儒教を混ぜた教え）の講義も実施されました。収容者は講義に感動して涙を流すこともあり、社会復帰の精神的な支えとなったとされています。これは、現在の教誨（きょうかい）に近い役割を果たしていました。

収容期間満了後、江戸で商売を希望する者には土地や店舗を、農民を希望する者には田畑を、大工を希望する者には道具を支給するなど、手厚い支援が行われました。しかし、収容されていたのは元々犯罪者であったため、収容中に様々な問題を引き起こすことも少なくありませんでした。

例えば、土木作業のために外に出すと、「公儀の人足だ」と称して周辺の農民を困らせたり、勘定所の文書倉庫で書類整理をさせると、役人が書き損じた書類を勝手に破いて持ち帰ったり、監視役の同心が説教をしても開き直る（「どんなことをしても首が落ちるだけだ」）といった問題行動が見られました。

関連事項

* 府中刑務所: 石川島人足寄場が前身とされています。

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