助川喜四郎

助川 喜四郎

助川 喜四郎（すけがわ きしろう、1883年（明治16年）8月7日 - 1963年（昭和38年）12月11日）は、日本の優れた医師であり、ウイルス学者です。特に狂犬病と天然痘といった当時脅威となっていた感染症の研究において、画期的な成果を上げ、その防除に生涯を捧げました。

生涯と研究の始まり

1883年（明治16年）、茨城県筑波郡大穂村（現在のつくば市）に生まれた助川は、1911年（明治44年）に愛知医学専門学校（現在の名古屋大学医学部）を卒業後、感染症研究の道へ進みます。同年9月には伝染病研究所（後の東京大学医科学研究所）に入所し、その後、北里研究所でも細菌学の研究に携わりました。これらの初期の経験が、後の重要な研究活動の礎となりました。

狂犬病との戦い

1915年（大正4年）、神奈川県衛生試験所（現在の神奈川県衛生研究所）に技師として迎えられた助川は、防疫研究主任として狂犬病の研究に本格的に着手します。当時、狂犬病は日本各地で流行の兆しを見せ、人獣共通感染症として大きな脅威となっていました。当時の予防法は主にパスツール法による人体への予防接種でしたが、それでも発病するケースがあり、犬そのものに対する予防法の開発が急務とされていました。

助川は、研究準備を進めた後、1918年（大正7年）には神奈川県知事の許可を得て、横浜公園で犬に対する予防接種を初めて実施しました。その後も精力的に研究を続け、1921年（大正10年）には、狂犬病予防のための画期的な犬体注射法である「助川梅野法」を完成させます。この方法の確立により、狂犬病の予防は飛躍的に進歩しました。さらに研究を進めた助川は、7年間に及ぶ研究の末、1926年（大正15年）には狂犬病の原因となる病原体そのものの発見に至り、学界に発表しました。

天然痘ワクチンの開発

同時期、助川は天然痘の予防に必要な痘苗（種痘のワクチン）の研究にも着手していました。当時、天然痘予防には牛痘ウイルスを用いた牛痘苗が使われていましたが、製造過程で雑菌が混入しやすく、また高価な仔牛を大量に確保する必要があるという課題がありました。助川は、これらの問題を解決するため、雑菌を含まない純粋な痘苗を、牛体に頼らずに人工的に培養する方法の確立を目指しました。

様々な培地での実験を繰り返した後、助川は生きた組織を用いた培養に活路を見出し、1921年（大正10年）には孵化鶏卵を用いることで痘苗の培養に成功します。研究室や設備が関東大震災で損壊するなどの困難に見舞われながらも、研究を継続し、1937年（昭和12年）までに153代にも及ぶ連続培養を達成しました。その20年以上にわたる研究成果を、1940年（昭和15年）に細菌学雑誌に発表します。この功績が認められ、厚生省（現在の厚生労働省）から鶏卵痘苗の製造許可を得ることに成功。助川が開発した鶏卵痘苗は、従来の牛痘苗と並んで一般の種痘に広く用いられるようになりました。1949年（昭和24年）までに、助川研究所では実に500万人分もの鶏卵痘苗を製造し、天然痘の予防と撲滅に大きく貢献しました。

その他の貢献

助川の感染症に対する貢献はこれだけにとどまりません。終戦直後、日本国内で発疹チフスが大流行した際には、厚生省の要請に応じ、得意の鶏卵培養技術を応用して発疹チフスワクチンの大量製造に成功。この迅速な対応により、流行の拡大を短期間で抑え込むことに貢献しました。

晩年

1928年（昭和3年）、助川は茨城県土浦市に転居し、昭和病院と助川研究所を設立。地域医療に貢献する傍ら、研究活動も続けました。1934年（昭和9年）には、長年の功績が認められ、従五位勲六等に叙されました。助川喜四郎は、1963年（昭和38年）12月11日、土浦市にて80年の生涯を閉じました。

感染症の病原体研究、そして効果的かつ安全な予防法・ワクチン開発に尽力した助川喜四郎の業績は、多くの人々の健康と命を守る上で計り知れない価値を持っています。彼の情熱と探求心は、日本の公衆衛生史に確かな足跡を残しています。

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