労働人民進歩党

キプロスの労働人民進歩党（AKEL）：歴史、政策、そしてキプロス問題

キプロス共和国（南キプロス、ギリシャ系キプロス）において、長年にわたり重要な役割を果たしてきた左翼政党、労働人民進歩党（AKEL）について考察します。AKELは、マルクス・レーニン主義を掲げる共産主義政党であり、非武装中立なキプロスの建設、EUとの関係強化、そして北キプロス・トルコ共和国との連邦制に基づく統合を支持しています。

結党と独立運動：複雑な歴史的文脈

1926年、キプロス人共産主義者によってキプロス共産党として設立されたAKELは、当初からイギリスの植民地支配からの解放と独立を究極の目標として掲げていました。1931年の民族主義的暴動を契機に非合法化されたものの、地下活動を行いながら1941年には他の共産主義グループと統合、現在の党名となりました。

初期のAKELは、段階的な独立を目指し、植民地統治下での独自憲法と自治政府の獲得を目標としていました。しかし、1949年の憲法案採択失敗を機に急進的な姿勢へと転換、エノシス（キプロスのギリシャへの併合）を主張するようになりました。この転換は、キプロスの民族自決運動の高まりと密接に関連しています。

EOKAとTMTとの対立：暴力と弾圧の時代

1950年代後半、キプロスでは反英闘争が激化し、ギリシャ系キプロス人の武装勢力EOKAがテロ活動を開始しました。EOKAは、エノシスの実現を目的にイギリス植民地政府だけでなく、AKELにも攻撃を加えました。AKELは、EOKAの行動を非難し、反共主義運動との闘いを強いられました。

一方、トルコ系キプロス人の民族主義集団TMTもAKELに敵対的な行動に出ました。TMTはAKEL内部のトルコ系キプロス人党員に離党を強制し、抵抗した者には殺害を繰り返しました。このTMTの指導者には、後の北キプロス・トルコ共和国初代大統領であるラウフ・デンクタシュがいました。EOKAとTMTからの攻撃により、AKELは大きな打撃を受け、キプロスの独立交渉にも参加できませんでした。

躍進と政権与党：EU加盟とキプロス問題

1974年のキプロス紛争による南北分裂後、TMTは事実上解散し、AKELは本格的な党勢拡大に乗り出しました。1988年にディミトリス・フリストフィアスを総書記に迎え、1990年代以降急速に勢力を拡大、2001年には総選挙で第1党に躍り出ました。2008年にはフリストフィアスが大統領に当選し、共産主義系政党が民主的な選挙で政権を担うという欧州では珍しい事態となりました。

AKEL政権下でキプロスはEUに加盟し、AKEL自身も欧州左翼党に加盟しました。しかし、AKELはキプロスを一党独裁制に基づく社会主義国にするのではなく、市場経済と複数政党制を維持しています。北キプロスにおいても、再統合派のメフメト・アリ・タラートが大統領に就任するなど、南北両政府がキプロス再統合を志向する体制が整いました。

その後、AKELは政権から遠ざかりましたが、キプロスの主要政党として、現在も重要な政治勢力として活動を続けています。AKELの歴史は、キプロスの独立運動、民族対立、そしてEU加盟という複雑な歴史的文脈と深く関わり合っています。その歴史と政策を理解することは、キプロス問題を理解する上で不可欠です。

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