諸国牧

諸国牧と近都牧：古代日本の馬産と国家統制

古代日本において、軍事や交通を支える上で重要な役割を果たしたのが、諸国牧（しょこくまき） と 近都牧（きんとまき） です。これらの牧は、単なる家畜の飼育場ではなく、国家の統制下で運営される重要な施設でした。

諸国牧とは

諸国牧は、兵部省が管轄した牧場で、主に軍馬や貴族への貢馬、駅伝馬などの供給を目的としていました。飛鳥時代に設置されたと考えられていますが、正確な時期は不明です。

延喜式によると、全国18ヶ国に39ヶ所の牧が設置され、馬牧が24ヶ所、牛牧が12ヶ所、馬牛牧が3ヶ所ありました。各牧では、5歳に達した馬が左右馬寮に送られ、西海道諸国の牧からは大宰府に送られました。

近都牧とは

近都牧は、諸国牧から集められた馬牛を放し飼いにするために、主に九州や畿内周辺に設置された牧場です。諸国から貢上された馬牛を一旦ここで集め、管理したと考えられます。

律令制下の牧の運営

律令制下では、各牧に責任者である牧長（ぼくちょう）1名、文書事務を行う牧帳（まきちょう）1名が置かれ、馬牛100頭ごとに2名の牧子（ぼくし）が飼育にあたりました。国司が牧長以下を指揮・監督し、中央では兵馬司が全国の牧を管理していました。

牧で乗馬に適すると判断された馬は軍団に送られ、裕福な兵士の家で飼育されました。また、駄馬は駅伝場などで活用されました。このように、国家は騎馬の供給を厳格に統制していました。

牧の運営にあたり、牧長、牧帳、牧子らは、放牧中の馬を痩せさせたり、失ったりすると罰せられました。一方、規定の増産数（母畜100頭に対して駒犢60頭）を上回る増産を達成すると、褒美として稲が与えられました。このように、牧の運営には厳格な規定とインセンティブが設けられていました。

諸国牧の所在地

以下は、延喜式に記された諸国牧の所在地です。

下野国: 朱門馬牧
常陸国: 信太馬牧
下総国: 高津馬牧、大結馬牧、木島馬牧、長洲馬場、浮島牛場
上総国: 大野馬牧、負野牛牧、新屋牧
安房国: 白浜馬牧、粉師馬牧
相模国: 高野馬牛牧
駿河国: 岡野馬牧、蘇弥馬牧
備前国: 長嶋馬牛牧

近都牧の所在地

以下は、主な近都牧の所在地です。

摂津国: 鳥養牧、豊島牧、為奈野牧
近江国: 甲賀牧
丹波国: 胡麻牧
播磨国: 垂水牧
大宰府

関連事項

勅旨牧: 内厩寮が経営していた牧場

まとめ

諸国牧と近都牧は、古代日本の軍事、交通、そして国家運営を支える上で不可欠な存在でした。これらの牧場を通じて、国家は馬牛を効率的に供給し、管理する体制を確立しました。牧の設置場所や運営方法からは、当時の国家が資源をどのように活用し、統制していたかを窺い知ることができます。

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