勝川春好

勝川春好：江戸時代中期の浮世絵師とその独特の画風

勝川春好（かつかわしゅんこう、1743年-1812年）は、江戸時代中期を代表する浮世絵師の一人です。勝川春章に師事し、その才能を開花させました。本姓は清川、通称は伝次郎で、様々な説話が残されています。例えば、一度は師である春章と袂を分かち、蘭秀と名乗った時期もあったと伝えられています。しかし、後に和解し、春好と改名したとのことです。

春好の作画活動は、明和の末期から文化の頃まで続きました。彼の作品の中で最も多いのは、細判の役者絵です。特に、細判二枚続や三枚続といった形式の作品に、独特の表現力を見ることができます。役者絵以外にも、相撲絵なども手掛けており、その画力は多様なジャンルに及んでいます。

注目すべきは、天明8年（1788年）から寛政2年（1790年）頃にかけて制作された「大顔絵」です。これは、役者たちの半身像を、さらにクローズアップして描いた、ブロマイドのような作品群です。中でも五代目市川團十郎の『暫』を題材にした大顔絵は有名です。この斬新な表現は、後の浮世絵界に大きな影響を与え、特に東洲斎写楽の画風形成に影響を与えたとされています。

春好は役者絵だけでなく、黄表紙や洒落本の挿絵も手がけていました。これらの作品からは、当時の世相や風俗を垣間見ることができ、当時の社会状況を知る上で貴重な資料となっています。『出世米饅頭』（黄表紙、安永7年刊行）や『品川楊枝』（洒落本、寛政11年序、芝晋交作）などは、その代表的な例です。

晩年は不幸に見舞われます。四十五、六歳の頃には中風を患い、右手が不自由になったと伝えられています。そのため、絵を描くことを諦め、麻布の善福寺で隠遁生活を送ったとされています。しかし、烏亭焉馬の依頼により、市川白猿の像を左手で描くなど、最後まで画への情熱を失うことはありませんでした。

春好の作品は、東京国立博物館や城西大学水田美術館などに数多く所蔵されています。「中村仲蔵の石川五右衛門」「市川高麗蔵・大顔」「楽屋内・中村仲蔵」「柏戸・江戸が崎・谷風」「二代目坂東三津五郎の白酒売」「三代目瀬川菊之丞の白酒売」といった錦絵作品は、いずれも彼の代表作として高く評価されています。また、「達磨と遊女図」には「行年六十一歳　春好左筆」の落款と花押、四方赤良の画賛があり、享和3年（1803年）の作であることが確認されています。「春好自画像」は浮世絵太田記念美術館に所蔵されています。

勝川春好は、70歳で生涯を閉じました。彼の墓所は台東区西浅草の善照寺にあり、法名は釈春好信士です。数々の作品を通して、江戸時代中期の風俗や文化を後世に伝えた、重要な浮世絵師と言えるでしょう。彼の革新的な画風は、後世の浮世絵師たちに大きな影響を与え続け、現在もなお、多くの人々を魅了し続けています。 彼の作品からは、時代を超えて伝わる、人間味あふれる表現と、独自の美的センスを感じ取ることができます。

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