北廻線太魯閣号脱線事故

北廻線太魯閣号脱線事故

2021年4月2日午前9時28分頃（現地時間）、台湾の北廻線で発生した列車脱線事故は、台湾鉄路管理局（台鉄）の太魯閣号408列車が、線路上に落下した工事用クレーン車と衝突し、トンネル内で脱線したものです。この事故により、多くの尊い命が失われ、多数の負傷者が出ました。

概要

事故が発生したのは、和仁駅と崇徳駅の間、清水トンネル内でした。太魯閣号408列車は、樹林駅から台東駅へ向かう途中で、この事故に遭遇しました。当日は清明節の連休初日であり、乗客乗員合わせて498人が乗車していました。事故の結果、運転士を含む49人が死亡し、245人が負傷するという、台湾の鉄道史上でもまれに見る大惨事となりました。

死者の中には、フランス国籍1人、アメリカ国籍2人が含まれており、負傷者には日本、オーストラリア、マカオ、中国の各国の国籍を持つ人々も含まれていました。地元メディアは、この事故を「過去73年間で最悪の鉄道事故」と報じました。

事故現場は、トンネルを含めて上下線が東西に分かれていたため、事故とは無関係の北上線路を利用した双単線方式で、事故直後から他の列車の運行は継続されました。

人的被害

この事故で、列車長も負傷しましたが、事故当時最後尾の1号車にいたため、外部との連絡や救援活動を支援しました。当初50人目の犠牲者とされていた方は、DNA鑑定の結果、既に身元が判明した犠牲者と一致したため、死亡者数は49人で確定しました。

事故による犠牲者が多数に及んだ背景には、列車の乗車定員を超える乗客数があったことが挙げられます。2019年から、1列車あたり120人を上限に、当日用の無座票（立席特急券に相当）が販売されるようになり、輸送力増強が図られましたが、このことが結果的に事故の被害を拡大させた要因の一つとなりました。乗客のうち、372人が座席指定券を持ち、120人が無座票を所持していたとみられています。また、乗務員3名と清掃作業員1名が乗車していたことも確認されています。

物的被害

台鉄は、事故による損害賠償として、4日時点で8.24億台湾ドルを請求する方針を示しました。この金額には、乗客への賠償金や治療費は含まれておらず、実際の損害額は10億台湾ドルを超えるものと推定されています。また、4月9日には、防護工事を受注していた2社の資産、総額4.5億台湾ドルが差し押さえられました。

軌道施設

事故により、500本以上のコンクリート枕木が損傷し、150メートルの架空電車線が落下、1本の架線柱が倒壊したほか、軌道沿いのケーブル線が400メートルにわたって落下しました。このため、事故発生当初、復旧には最低でも1週間はかかると見込まれていました。

事故車両

事故を起こした列車は、2016年に追加投入されたもので、先頭6両がトンネル内に閉じ込められました。特に先頭の8号車から4両は、著しく損傷していました。

復旧

当初は8日に復旧する見通しでしたが、トンネル内構造物の調査が必要となったため、復旧完了は20日になると延期されました。9日深夜に試運転が行われ、復旧工事は完了。19日には不通だった下り線の運行が再開されましたが、最低2ヶ月間はトンネル手前で時速40kmでの徐行運転となりました。

車両搬出

事故後、5日未明から車両の搬出作業が開始され、先頭から5両目の4号車、4両目の5号車が最初に運び出されました。6日には、先頭から3両目の6号車、2両目の7号車が搬出され、7日には、27人が犠牲となった最後の8号車も搬出されました。8号車の搬出時には、車体からのオイル漏れと気化により発火するトラブルも発生しましたが、すぐに消火されました。

事故調査

クレーン車の状況

事故の原因は、線路脇の斜面に停車していた工事用クレーン車が、何らかの原因で線路に滑落したことによるものとされています。クレーン車の運転手は、パーキングブレーキをかけずにその場を離れたとみられています。クレーン車が停止していた場所から線路までは、斜度45度、20メートルの高低差がありました。事故発生の15分前に、別の列車が通過していたことから、台鉄は、クレーン車が9時13分から28分の間に滑落したと推測しています。

クレーン車運転手の供述は、その後の調査で全て否定されました。実際には、クレーン車には従業員も同乗しており、運転手自身が斜面に立ち往生させていたことが判明しました。また、不法移民の従業員とともに、廃タイヤを不法投棄する目的で現場を訪れていたことも明らかになりました。彼らは、廃タイヤを工事現場に積み終えた後、クレーン車の操作を誤り、線路に落下させた後も通報せず、不法移民の従業員に線路上から列車を止めさせようとしたものの、間に合わなかったとされています。

列車側の状況

国家運輸安全調査委員会（運安会）が回収した列車のブラックボックスの解析結果から、和仁トンネル出口から清水トンネルまでは約287メートルであり、最高速度130km/hからの非常ブレーキによる制動距離は約600メートル、16.6秒かかることが判明しました。しかし、衝突前の列車の速度は125km/hで、クレーン車転落地点までは約250メートルしかなく、非常ブレーキをかけても間に合わなかったとされています。また、現場は緩いカーブであり、視認距離は短かったものの、運転士は警笛を鳴らし、衝突寸前まで非常ブレーキを作動させており、運安会は運転士に過失はなかったと判断しました。

時系列

8時49分59秒：クレーン車が工事現場の斜面に停車。
9時28分35.5秒：太魯閣号408列車が和仁トンネル南側（清水トンネル入口手前287メートル）を出る。
9時28分43.6秒：非常ブレーキ作動。
9時28分44秒：列車速度126km/h。
9時28分45.5秒：クレーン車と衝突（清水トンネル入口手前40メートル）。
9時28分46.6秒：列車が清水トンネル北側入口左手に激突。
9時28分47秒：ブラックボックス記録停止（列車速度121km/h）。
9時31分：花蓮県消防局が女性からの通報を受理。
* 9時35分：台鉄花蓮工務段の主任がクレーン車運転手から連絡を受け、現場へ急行。

防護工事

事故現場では、2019年にも落石事故が発生しており、斜面崩落防止のためのシェルターを設ける防護工事が行われていました。この工事は、1億2484万台湾ドルを投じて行われ、工期は2019年4月から2021年1月までとされていましたが、業者の都合で延期されていました。台鉄は、清明節の連休期間中は工事を休止するよう通達していましたが、業者はこの日も現場を視察していました。工期が遅延すると1日12万台湾ドルの罰金が発生するため、連休中の工事休業規定を破り、休日出勤していたと考えられます。

防護事業を受注した「東新営造」は、過去7年の受注実績の約8割が花蓮県政府発注のものでした。事故車両のクレーンを持ち込んだ業者は、その下請けでした。クレーン保有業者は、過去にも台鉄や交通部公路総局から多数の事業を受注していましたが、事故後、捜査当局に勾留されました。また、過去の工事でコンクリート擁壁のリベットを半分しか打ち込まなかったという証言も出ています。

防護事業は、複数の業者によって再発注され、その過程で問題が発生していたことが明らかになりました。クレーン保有業者は、過去にブラックリスト入りしていたほか、文書偽造や労働災害を起こしていたにも関わらず、公共事業を受注していたことも判明しました。行政院公共工程委員会は、有罪判決を受けた業者がなぜ事業に参加していたのかを問われ、他社の名義を借用していたため追跡できなかったと答弁しました。

政府の対応

行政院交通部は、遺族に死者1人あたり540万台湾ドル、重傷者に1人あたり240万台湾ドル、軽傷者に同60万台湾ドルの見舞金を支給すると発表しました。

衛生福利部

衛生福利部に属する中央健康保険署は、保険証を所持していない乗客についても、医療機関での治療を拒否しないことと、治療費を一時的に国費で立て替えることを発表しました。また、国外にいる死傷者の親族については、検疫・隔離規定を緩和すると発表しました。

花蓮県政府

花蓮県政府は、初七日の8日に合同法要を執り行いました。

影響

交通部長の林佳龍は、事故の責任を取り辞意を表明しましたが、政府は一旦慰留しました。その後、正式に辞表を提出し受理され、運行再開を見届けた後、辞任しました。後任には交通部政務次長の王国材が昇格し、台鉄局長には杜微が就任しました。

この事故の影響で、花蓮・台東の両県では宿泊キャンセルが相次ぎ、観光業に大きな損失が出ました。日本の国土交通省は、全国の鉄道事業者に対し、線路沿いの斜面の防護柵設置状況を確認するよう求めました。

相次ぐ鉄道工事現場での事故と安全対策への懸念

この事故をきっかけに、鉄道工事現場での安全対策への懸念が高まり、他の工事現場でも事故が発生しました。また、台鉄が行っている安全対策工事そのものにも疑問符が投げかけられました。さらに、行政院は刑法を修正し、公共運輸機関で人的被害を与えた場合の刑を重くすると発表しました。

批判

花蓮出身の有識者は、北廻線のチケット入手難や、花蓮・台東両県民優先の実名制、駅売りの無座票などでは解決には至っていないと批判しました。また、蘇花高速道路の建設が遅れていることに対しても不満を示しました。

各界の反応

事故発生後、台湾国内外から多くの弔意や支援が寄せられました。政界や財界、民間からも義援金が寄付され、被災者を支援する動きが広がりました。また、各国政府や国際機関からも哀悼の意が表明されました。

この事故は、台湾の交通政策や安全対策に大きな課題を突きつけるとともに、多くの人々にとって忘れられない悲しい出来事となりました。


「0402臺鐵408次太魯閣號事故」專區
0402臺鐵事故專區

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