北方ルネサンス建築

北方ルネサンス建築の概要

北方ルネサンス建築は、アルプス山脈以北に広がったルネサンス様式をまとめたものです。ルネサンス建築がフィレンツェで生まれた15世紀には、他のヨーロッパ地域はゴシック様式が主流でした。しかし、16世紀初頭になると、王侯貴族たちがラテン文学の導入に積極的になり、その結果、イタリアで培ったルネサンス建築のデザインが東欧諸国やさらに西のフランス、ドイツ、オランダ、スペイン、そしてイギリスに影響を与えました。

ものの、後のバロック建築や新古典主義建築を考慮すると、ルネサンス建築が他の諸国に与えた影響は制限されていました。その要因として、次の二つが挙げられます。ひとつは、イタリア以外の建築家や職人が古典主義の美しさを模倣するのは容易だった反面、古典主義の理念を表現するのが難しかったことです。イタリアの建築書が一部紹介されたものの、実際のローマ建築を見る機会が少なく、ゴシックの伝統を完全に捨てることができなかったため、彼らの作品は擬似的な古典主義に留まることが多かったのです。また、君主たちは技術に優れたイタリアの建築家を求めるようになり、これが美術家を巡る競争を激化させました。

もう一つは、各国の政治的状況によるものです。フランスはスペインやイタリアとの領土獲得を巡って争っており、イギリスはエリザベス1世の外交方針によって孤立していました。これらの複雑な情勢が、ルネサンス建築を積極的に取り入れる障害となっていたのです。

各国におけるルネサンス建築

中欧諸国

ハンガリー、モスクワ大公国、ポーランド、オーストリアなどの中欧諸国では、ルネサンス建築の導入が比較的早かったと言えます。特に、マーチャーシュ1世が治めていた1458年から1490年の間には、ハンガリー王国においてリッチなルネサンス芸術が栄えました。彼はイタリアから石工や彫刻家を招き、ブダ城やヴィースグラード城の建設を推進しました。

しかし、マーチャーシュの死後、ハンガリーは衰退し、1526年のモハーチの戦い以降、オスマン帝国に多くの領土を奪われました。これにより、ハンガリーにおけるルネサンス建築の活動も減少しました。

フランス

フランスでは、ルネサンス建築が早期に吸収されました。フランソワ1世の時代には、レオナルド・ダ・ヴィンチなどのイタリアの芸術家が国を訪れ、シャンボール城やブロワ城など多くの建物が建設されました。これは、イタリアの古典主義の影響を色濃く反映しています。やがて、フォンテーヌブロー派が形成され、特にフォンテーヌブローの城館はこの時期の重要な建築物となります。

1540年以後、フェリベール・ド・ロルムやセバスティアーノ・セルリオがフランス建築において大きな貢献をし、ルーヴル宮殿の再建工事が進められました。これにより、フランス独自の古典主義建築が確立されました。

イギリス

イギリスでのルネサンス建築の導入は遅れを取っていました。イタリアから距離があり、さらに宗教改革の影響で受け入れが難しかったためです。しかし、17世紀に入りイニゴー・ジョーンズが著名な建築物を手がけるようになり、ルネサンス建築が本格的に持ち込まれました。彼の作品としては、1616年起工のクイーンズ・ハウスや1619年起工のバンケティング・ハウスがあります。

主要建築物

ここでは、北方ルネサンス建築の重要な作品をいくつか挙げます。

• - フランス

- シャンボール城（1519年起工）
- ルーヴル宮殿のクール・キャレ（1546年起工）

• - スペイン

- グラナダ大聖堂（1528年起工）
- エル・エスコリアル（1563年起工）

• - ドイツ

- 古代美術館（1569年起工）
- アウクスブルク市庁舎（1615年起工）

• - イギリス

- バーリィ・ハウス（1556年起工）
- クイーンズ・ハウス（1616年起工）

このように、北方ルネサンス建築は、イタリアの影響を受けながらも、各国で独自の発展を遂げた建築様式であると言えます。

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