十輪院

十輪院 (じゅうりんいん)

十輪院は、奈良県奈良市十輪院町に位置する真言宗醍醐派の寺院です。雨宝山と号し、石造の地蔵菩薩を本尊としています。江戸・明治期の風情を残す奈良町の一角にあり、静かで落ち着いた雰囲気が漂います。

歴史

十輪院は、元興寺の子院として創建されました。寺伝によれば、奈良時代に右大臣・吉備真備の長男とされる朝野宿禰魚養が、元正天皇の旧殿を拝領して創建したと伝えられています。その後、弘仁年間（810年 - 824年）には弘法大師が滞在したとされています。朝野魚養は能書家として知られ、空海の書の師ともいわれますが、その伝記は不明な点も多いです。

「十輪院」という名称が文献に初めて登場するのは、鎌倉時代の仏教説話集『沙石集』（1283年成立）です。寺名は、『地蔵十輪経』に由来すると考えられています。現存する本堂、石仏龕などは鎌倉時代のものとされ、当時、地蔵信仰の寺院として栄えていたことが伺えます。

中世以降は、庶民の地蔵信仰の寺として発展しました。室町時代から天正13年（1585年）までは院領300石を領していましたが、豊臣秀長によって没収され、兵乱によって堂宇や宝物も大きな被害を受けました。しかし、慶長7年（1602年）に徳川家康から寺領50石の寄進を受け、本堂や石仏龕の修復が進められ、一般大衆の地蔵信仰の高まりとともに寺勢を盛り返しました。

明治維新後には宝蔵を手放すなど一時衰退しましたが、1955年（昭和30年）に本堂と南門が解体修理され、その後も不動堂や御影堂の修理が行われ、境内が整備されていきました。

境内

境内には、国宝や重要文化財を含む多くの文化財が点在しています。

本堂（国宝）: 鎌倉時代の住宅風仏堂で、石仏龕を拝むための礼堂として建立されました。寄棟造、本瓦葺きで、開放的な造りが特徴です。正面の蟇股など、鎌倉時代の様式を今に伝えています。
御影堂（奈良県指定有形文化財）: 慶安3年（1650年）に建てられた位牌堂で、弘法大師坐像が安置されています。
魚養塚: 朝野宿禰魚養の墓とされ、横穴式石室の中に如来型坐像の石仏が刻まれています。
鎮守社: 天照大神、春日大神を祀っています。
庭園: 浮島弁財天石祠、愛染曼荼羅石、曼荼羅石堂、興福寺曼荼羅石などがあります。
茶室「頻婆果亭」
庫裏
書院
河島英五の墓
護摩堂: 不動堂とも呼ばれ、重要文化財の木造不動明王および二童子立像が安置されています。
南門（重要文化財）: 鎌倉時代中期の建築で、切妻造・本瓦葺の四脚門です。

文化財

国宝
本堂
重要文化財
南門
石仏龕（附：覆堂）: 花崗岩製の石仏龕で、地蔵菩薩立像を中心に、十王像などが彫られています。
木造不動明王二童子立像 3躯: 護摩堂に安置されています。
旧十輪院宝蔵: 現在は東京国立博物館にあります。

奈良県指定有形文化財
御影堂
絹本著色阿弥陀浄土図（伝智光曼荼羅）
多宝塔
奈良市指定有形文化財
銅造誕生釈迦仏立像
絹本著色尊勝曼荼羅図
絹本著色十六羅漢像 2幅
興福寺曼荼羅石 1面
鎌倉期石造品

札所

大和北部八十八ヶ所霊場 - 6番
大和地蔵十福霊場 - 3番

アクセス

* JR大和路線奈良駅・近鉄奈良駅より奈良交通バス（天理駅行）「福智院町」下車、徒歩



十輪院は、奈良の歴史と文化に触れることができる貴重な場所です。ぜひ一度、足を運んでみてください。

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