吉備真備

吉備真備：遣唐使から右大臣へ、波乱に満ちた生涯

吉備真備(きびのまきび)は、奈良時代を代表する公卿であり、優れた学者として知られています。下道氏(しもつみちし)出身で、後に吉備朝臣を名乗りました。右大臣にまで上り詰めた彼の生涯は、遣唐留学、朝廷での活躍、権力闘争、そして地方での貢献と、実に波瀾万丈でした。

遣唐留学と博学多才

備中国下道郡に生まれた真備は、若くして遣唐使の留学生として唐へ渡りました。18年間におよぶ留学生活の中で、経書や史書のみならず、天文学、音楽、兵学など、幅広い学問を修め、唐でも高い評価を得ました。帰国時には、多数の典籍、天文暦書、楽器、そして弓矢など、多くの貴重な品々を持ち帰ったことは有名です。当時の学令の制約から、正規の学校に通えなかった可能性も指摘されていますが、阿倍仲麻呂と共に唐で名を馳せた数少ない遣唐留学生の一人であったことは間違いありません。

聖武朝での昇進と活躍

帰国後、真備は従八位下という低い位階から、その功績を認められ、正六位下に一気に昇進。大学助に任命され、朝廷の中枢に登用されました。その後も、中宮亮、右衛士督などを歴任し、急速に昇進していきました。これは、朝廷が彼の唐留学での実績を高く評価し、積極的に登用しようとしたことを示しています。橘諸兄が権力を握ると、真備は彼と帰国した玄昉と共に重用され、皇太子・阿倍内親王の教育にも携わりました。天平18年には、下道朝臣から吉備朝臣に改姓し、吉備地方全域を代表する豪族としての地位を確立したと見られています。しかし、藤原仲麻呂の台頭と共に、春宮大夫や東宮学士の職を解任され、右京大夫に左遷されるなど、権力闘争の影も見え隠れします。

再び遣唐、そして地方官への左遷

孝謙天皇の即位後も、藤原仲麻呂の権勢拡大により、真備は筑前守、肥前守と地方官に左遷されました。これは、藤原広嗣の乱への関与を懸念した朝廷の措置であるという見方もあります。しかし、間もなく第12次遣唐使の副使に任命されるという異例の人事を経験します。この時、大使よりも位階が高かった真備は、阿倍仲麻呂の助力も得て唐で特別な待遇を受け、貴重な経験を積むことができました。帰国後も、大宰大弐として九州地方に赴任し、新羅への防衛対策、安史の乱への備えなど、唐で学んだ兵学を活かして活躍しました。この間、彼は大宰府の実質的な責任者として、重要な役割を果たしたと考えられています。新羅征討計画にも深く関与し、行軍式を作成するなど、具体的な軍事準備にも携わりました。

藤原仲麻呂の乱と右大臣への就任

70歳を迎え、大宰府に辞職の意を表明した真備でしたが、藤原仲麻呂の乱の勃発により、朝廷に召還されました。この乱では、中衛大将として追討軍を指揮し、乱の鎮圧に貢献。その功績により、勲二等を受賞し、その後、中納言、大納言を経て、ついに右大臣にまで昇進しました。地方豪族出身者としては異例の出世であり、学者出身の大臣としては、菅原道真と並ぶ存在です。また、この頃には、養老律令の修正にも携わっていました。光仁天皇の即位後も右大臣の職に留まりましたが、老齢を理由に辞職を許され、775年に81歳で亡くなりました。

伝説と後世への影響

真備の生涯には数々の伝説が伝わっています。唐での体験、阿倍仲麻呂との不思議な縁、陰陽道との関わりなど、魅力的な逸話は、後世の人々の想像力を掻き立てました。彼の学問と政治への貢献は、後世の日本社会に大きな影響を与え、現在もなお、真備は奈良時代を代表する偉人として記憶されています。彼の墓と伝えられる吉備塚古墳は、現在も奈良教育大学の構内に存在しています。また、真備ゆかりの場所には、多くの史跡や記念碑が残されており、彼の生涯と功績を偲ぶことができます。 真備は、単なる学者や政治家を超え、日本と中国の文化交流を象徴する存在として、歴史に刻まれています。

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