仁科神明宮

仁科神明宮について

仁科神明宮（にしなしんめいぐう）は、長野県大町市に位置する、天照大神を御祭神とする由緒ある神社です。その歴史は古く、創建以来、地域の信仰の中心として、人々の生活と深く結びついてきました。

歴史

この神社の創建は、古代にまで遡ります。皇大神宮の御領であった仁科御厨の鎮護のため、仁科氏によって伊勢神宮内宮が勧請されたのが始まりとされています。1192年の記録には、当時信濃国には麻績、長田、藤長、そして仁科の四つの御厨しか存在しなかったとあり、中でも仁科御厨は最も古く、創建の年次が不明であったと記されています。信濃国内の御厨は、全て伊勢神宮領であり、その中でも仁科御厨は特別な存在でした。

神戸が初めて信濃に封ぜられたのは1048年とされ、御厨の建立はそれ以降と考えられています。国司からの干渉もありましたが、宣旨により内宮の御厨として認められました。

一方で、仁科氏は御厨以外の自領を開発し、仁科荘を成立させました。承久の乱で仁科盛遠が戦死すると、所領は一時没収されましたが、後に皇女を通じて室町院領となりました。仁科御厨の領域は狭小でしたが、郷土史家の推定によれば、御厨は神領を保ち続け、式年造営が維持されました。

御厨の領域は大町市の一部に広がり、1179年には「信州安曇郡（仁科）御厨藤尾郷」という記述も見られます。また、1228年には仁科康盛が地頭を務めていました。

仁科神明宮は、創祀以来20年ごとの式年造替を欠かすことなく行い、古式を伝えた祭祀・神事を厳粛に執行してきました。領家であった仁科氏は、藤原時代から500年間、信濃の名族として勢力を誇り、勤王の精忠を尽くしました。その後、武田氏に滅ぼされた後、武田信玄の五男盛信が仁科氏の名跡を継ぎ、神明宮の祭祀を続けました。1582年に武田・仁科両氏が滅亡すると、小笠原貞慶が旧領を安堵され、神領を寄進しました。江戸時代には松本藩主が造営・祭祀を奉仕し、明治維新に至りました。1872年に郷社、1893年に県社に昇格しました。古来、仁科六十六郷の惣社として、また日本七神明の一つとして知られています。

式年造替は創祀以来、伊勢神宮にならって20年ごとに行われ、1376年からの棟札が保存されています。600年以上にわたる式年造替は、全国的にも珍しいものです。仁科氏の滅亡後は松本藩主が式年造替を奉仕しましたが、1636年以降は修造に留まっています。現在の社殿は寛永造替時のものと推定され、300年以上の歴史があります。

明治時代に入り、その責任は氏子や崇敬者に移り、式年造替は寄付によって行われるようになりました。なお、八代神明宮では、当社の古材で修理を行い、大祭には仁科神明宮から神職や関係者が参列する慣わしとなっています。2019年には、屋根の葺き替えなどの修理が行われました。

文化財

国宝

仁科神明宮2棟（本殿、中門）
1936年（昭和11年）に旧国宝、1950年（昭和25年）に重要文化財、1953年（昭和28年）に国宝に指定されました。
社殿は、室町時代の形式を残しており、20年ごとの式年造営によって以前の形式が維持されてきました。また、宮大工金原の手によって作られていることも重要な要素です。
本殿：桁行3間、梁間2間、軒高6.6mで、内宮式神明造の平入構造です。破風板が千木となり、鞭懸があり、棟持柱があるなど、古式が見られます。正面に浜縁、五段の階段があり、擬宝珠勾欄が施されています。
中門：単層平入の四脚門で、切妻造、檜皮葺です。柱は円柱、控柱は八角の礎石の上に立っています。柱上には冠木、肘木があり、板蟇股、舟肘木、化粧屋根裏などが特徴です。

重要文化財（国指定）

木造棟札 27枚
1376年～1856年の27枚の棟札が重要文化財に指定されています。20年に一度の式年造営に伴う棟札が14世紀以降現代まで保存されている点で貴重です。棟札には、造営を奉仕した人々の名前や、伐木から御遷宮までの日時、作料などが記されています。
御正体（みしょうたい）5面（附11面）
銅製の円板に仏像を取り付けた懸仏で、16面が重要文化財に指定されています。弘安元年（1278年）のものなど、古いものも含まれます。

長野県無形民俗文化財

太々神楽
仁科氏時代から伝わる神楽で、剣の舞、岩戸神楽、五行の舞など七座があります。
古式作始めの神事
伊勢神宮の祈年祭にならって行われる神事で、3月15日に奉納されます。

大町市有形文化財

銅製日岐盛貞奉納鏡
木造棟札
木造小笠原秀政禁制札

長野県指定天然記念物

仁科神明宮の社叢
19,258㎡の広さで、杉、檜、赤松、栗など、巨木や大木が繁っています。
御神木の孫木
倒伏した御神木の枝を挿し木し育てた苗木が植樹されています。
三本杉
かつて三本あった杉のうち、中央の杉が倒伏したため、その根元を保存しています。

アクセス

JR大糸線安曇沓掛駅から徒歩30分
JR大糸線信濃大町駅から大町市民バスで約25分、「仁科神明宮下」下車、徒歩約5分
信濃大町駅から周遊バスぐるりん号も利用可能（季節運転）

仁科神明宮は、大町市と篠ノ井線明科駅を結ぶ池田街道沿いの山際にあります。境内は宮山の南麗に広がり、老巨木が繁る風光明媚な場所に位置しています。

その他

市川崑監督の映画『犬神家の一族』(1976年版、2006年版)では、「那須神社」として登場しました。

参考資料

一志茂樹著『美術史上より見たる・仁科氏文化の研究』
『角川日本地名大辞典 20 長野県』
『長野県史 通史編 第2巻 古代2』
『大町市史 第2巻 原始・古代・中世』
大町市公式ページ
大町市文化財センター公式ページ
仁科神明宮公式ページ

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