南越国

南越国（なんえつこく）は、紀元前203年から紀元前111年まで、現在の中国南部からベトナム北部にかけて存在した王国です。秦の元官僚であった趙佗（ちょうだ）が建国し、首都は番禺（現在の広州市）に置かれました。最盛期には広東省、広西チワン族自治区の大部分、福建省、湖南省、貴州省、雲南省の一部、そしてベトナム北部を領有する大国でした。

南越国の成立

秦の始皇帝が中国を統一した後、嶺南地方（現在の広東省、広西チワン族自治区、ベトナム北部を含む地域）を攻略しました。紀元前214年には南海郡、桂林郡、象郡の3郡が設置され、趙佗は龍川県の県令に任命されました。秦の滅亡後、混乱に乗じて南海郡尉の任囂が亡くなると、趙佗がその職務を代行し、紀元前203年に南越国を建国しました。

趙佗の治世

建国当初、漢王朝とは緊張関係にありましたが、紀元前196年に漢の使者・陸賈の説得を受け入れ、漢に臣従します。しかし、漢の呂后が南越への物資輸出を禁止すると、趙佗は再び漢から離反し、自ら皇帝を称して長沙国を攻撃しました。呂后は討伐軍を派遣しましたが失敗に終わり、趙佗は近隣の諸国を併合し、南越国を最大版図としました。その後、漢の文帝が即位すると懐柔策に転じ、趙佗は再び漢に臣従し、南越王を称しました。しかし、南越国内では依然として皇帝号が使用されていました。

趙眜の治世

趙佗の死後、孫の趙眜が王位を継承しました。閩越が南越を攻撃すると、趙眜は漢に救援を求め、武帝は討伐軍を派遣しました。趙眜は漢に感謝の意を示し、太子を漢に入朝させることを約束しましたが、大臣らの反対により入朝は実現しませんでした。

趙嬰斉の治世

趙眜の死後、子の趙嬰斉が王位を継承しました。彼は、南越で南越人の妻との間に長男の趙越をもうけていましたが、長安で娶った樛氏との間に趙興をもうけ、趙興を太子に立てました。趙嬰斉は暴君であったと伝えられ、しばしば武帝から入朝を求められましたが、これを拒否しました。

趙興の治世と南越国の滅亡

趙嬰斉の死後、幼い趙興が王位を継承し、その母の樛太后が政治を主導しました。樛太后は漢に帰属することを主張し、武帝に入朝を申し出ましたが、丞相の呂嘉はこれに反対しました。呂嘉は反乱を起こし、趙興と樛太后を殺害し、趙嬰斉と南越人の妻の子である趙建徳を擁立しました。武帝はこれに対し討伐軍を派遣し、紀元前111年に南越国を滅ぼしました。

南越国の地理と人口

南越国の領域は、現在の広東省、広西チワン族自治区の大部分、福建省、湖南省、貴州省、雲南省の一部、そしてベトナム北部を含む広大な地域でした。人口は古越族と中原からの移民で構成されていました。古越族は南越、西甌、駱越などの支系に分かれていました。

南越国の政治

南越国の政治制度は秦の郡県制を基礎としていましたが、漢の制度も取り入れられていました。中央には丞相、内史、御史などの官職が置かれ、地方には郡県が設置されていました。また、南越国は独自の戸籍制度や紀年制度を持ち、漢字と中原の度量衡を使用していました。

南越国の軍事

南越軍は秦の嶺南征服時の兵士が起源となっており、古越族も加わって形成されました。将軍を頂点に、左将軍や校尉などの役職があり、最盛期の兵力は50万を超えていました。兵器は青銅製または鉄製で、剣、矛、鏃などが使用されていました。

南越国の民族政策

南越国では漢族と越族の融和を目指す政策がとられました。漢族の官僚が初期には中心でしたが、次第に越人も政治に関わるようになり、民族間の通婚も行われるようになりました。

南越国の外交

南越国は漢との間で、帰順と対立を繰り返しました。また、長沙国、閩越国、西南諸国などとも外交関係を持ちました。漢との間では交易も盛んに行われ、相互に利益を得ていました。

南越国の経済

南越国では農業、手工業、商業が発達していました。農業では、水稲栽培が盛んで、中原からの鉄製農具の導入により生産性が向上しました。手工業では、青銅器、鉄器、陶器、玉器などが製造され、商業では、陸上交易と海上交易が活発に行われました。

南越国の文化

南越国では、古越語と漢語が使用され、文字は漢字が用いられました。音楽舞踊も発達しており、鐘、磬、琴、笛などの楽器が使用されていました。また、住民は頭髪を短くし、刺青を施す風習がありました。住居は巣居や干欄などの独特な様式が用いられていました。

南越国の遺跡

広州市には、南越国宮署遺跡、南越文王墓などの遺跡があります。これらの遺跡から、当時の文化や生活を知ることができます。特に、南越文王墓からは、多数の副葬品が発掘されており、当時の南越国の繁栄ぶりを物語っています。

歴史論争

ベトナムの歴史家の中には、南越国をベトナムの正統な王朝とする見解もありますが、中国の歴史家はこれを認めていません。

南越国は、短い期間ながらも独自の文化を築き、中国南部地域に大きな影響を与えました。その歴史は、現在も多くの研究者によって研究が進められています。

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