南部鉄器

南部鉄器

南部鉄器は、岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者によって作られる鉄器です。伝統的な技術と製法を受け継ぎ、職人の手によって一つ一つ丁寧に作られています。1975年には経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定され、地域団体商標にも登録されています。令和3年度時点で72名の伝統工芸士が認定されています。

概要

南部鉄器は、主に岩手県の盛岡市と奥州市水沢地区で作られています。盛岡の南部鉄器は、江戸時代の南部藩の庇護のもと発展しました。一方、水沢の南部鉄器は、平安時代に藤原清衡が鋳物師を招いたのが始まりとされ、伊達氏・仙台藩の庇護を受け発展しました。現在では、両地区の鋳物業者が「岩手県南部鉄器協同組合連合会」を組織し、技術の向上や販路の拡大に取り組んでいます。

旧仙台藩にある「水沢鋳物工業協同組合」は「仙台鉄器」とは呼ばず、旧南部藩（南部地方）の「南部鉄器協同組合」の名称を用いて、両者とも「南部鉄器」と称しています。

歴史

南部鉄器と総称されていますが、水沢と盛岡ではその歴史が異なります。

水沢の南部鉄器

平安時代後期、藤原清衡が近江国から鋳物師を招いたのが水沢鋳物の始まりとされています。豊富な砂鉄や木炭などの資源に恵まれ、鋳物業が発展しました。室町時代初期には、京都から長田正頼という鋳物師が移り住み、技術を伝えたとされています。江戸時代には仙台藩の庇護を受け、鉄鍋や鉄釜、仏具などが生産されました。

盛岡の南部鉄器

盛岡の鋳物は、慶長年間に盛岡藩主南部氏が盛岡城を築城した頃に始まったとされています。有坂家、鈴木家、藤田家、釜師小泉家の4家が藩の鋳物需要を担い、歴代藩主の庇護のもと発展しました。小泉家からは、南部鉄瓶の創始者と伝えられる三代仁左衛門が出ています。

明治・大正時代

明治維新により藩の庇護を失い、一時衰退しましたが、東北本線の開通などにより販路が拡大し、再び活気を取り戻しました。大正時代には、旧盛岡藩主南部利淳が「南部鋳金研究所」を開所し、人材育成に貢献しました。

昭和・平成・令和時代

第二次大戦中は製造制限を受けましたが、戦後は伝統工芸品としての価値が見直され、茶道具や調理器具として再び注目を集めています。近年では、海外での人気も高まり、輸出も盛んに行われています。

製造される鉄器の種類

南部鉄器は、様々な種類の鉄器が製造されています。

鉄瓶
鍋
やかん
急須
風鈴
燭台
フライパン
鉄卵
ホットサンドクッカー

製造手順

南部鉄器の製造は、大きく分けて以下の工程で行われます。

1. デザイン: 製品のデザインを決定します。
2. 木型製作: 木型と呼ばれる型を製作します。
3. 鋳型製作: 木型を使い、砂や粘土で鋳型を作ります。
4. 乾燥・焼成: 鋳型を乾燥させ、焼き上げます。
5. 鋳込み: 溶かした銑鉄を鋳型に流し込みます。
6. 型出し: 鋳型から鉄器を取り出します。
7. 仕上げ: 表面の研磨や塗装などを行います。
8. 金気止め: 鉄瓶を800度から1,000度の木炭の火で焼き、磁性酸化被膜を付け、錆を防ぎます。

これらの工程を経て、南部鉄器は完成します。製品によっては、さらに多くの工程が必要となり、完成までに2ヶ月近くかかる場合もあります。

記録・その他情報

水沢江刺駅前にある「ジャンボ鉄瓶」は、直径2.5メートル、重さ1.8トンで、日本一のサイズです。
毎年10月に行われる水沢産業まつりでは、直径3.5メートル、重さ5トンの「ジャンボ鉄鍋」で作る芋の子汁が振舞われます。
水沢駅の南部風鈴は、日本の音風景100選に選ばれています。

南部鉄器は、その美しい意匠と優れた機能性で、日本の伝統工芸品としてだけでなく、現代の生活にも深く根付いています。

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