即位灌頂

即位灌頂（そくいかんじょう）

即位灌頂とは、日本の天皇即位式において行われる秘儀の儀式であり、特に密教の要素が色濃く反映されています。具体的には、即位式の前に摂関家、主に二条家の人物から皇の印相と真言が伝授される「印明伝授」が行われた後、即位式の中で天皇がこれらを実施することで成り立っています。しかし、この二つの過程を厳密に区別する見方もあり、学術的な議論が続いています。

即位灌頂の歴史的背景

即位灌頂の起源は、古代インドにおける王の即位時に行われた灌頂の儀式にさかのぼることができます。こちらの儀式では灌頂水が王の頭上に注がれるもので、後にバラモン教の教典『ヴェーダ』に記載され、仏教儀式に取り入れられた過程が存在します。9世紀に日本に密教が伝わることで、この灌頂の儀式が天皇の即位に結びつくようになりました。

文化的な視点から見ると、中国では皇帝の即位式に灌頂儀式が行われた形跡が確認されていない一方で、日本の即位式は天孫降臨の神話を有しており、宗教的な要素が強かったことも要因となっています。また、灌頂が古代インドの儀式に起因しているとはいえ、密教に基づく印明伝授と実修で構成された日本の即位灌頂は、その理念と内容において独自の発展を遂げています。

即位灌頂の発展

平安時代の院政期には、仏教の広まりが王権に影響を与える状況が生じ、金輪聖王や十善の君などの仏教的名称が天皇の称号となることもありました。この時期に、天皇の即位式の中で即位灌頂のような儀式が強化されたとされることから、王権仏授説の視点も提案されています。中世以降、神道の儀式は衰退し、天皇の宗教的権威を保つ新たな手段として即位灌頂が発展していったのです。

タイにおける即位儀式でも灌頂が行われていることは、アユタヤ朝時代にバラモン教と結びついている点を考慮する必要があります。

即位灌頂の実践方法

実際の即位灌頂では、天皇が即位前に印明伝授を受け、即位式中にその実修を行います。天皇が結ぶ印相は金剛界大日如来を象徴する智拳印とされています。真言は、胎蔵界大日如来または荼枳尼天の真言が唱えられることが一般的です。実際には高御座に着座後、印相を結び真言を唱える流れになりますが、この儀式が秘儀であったため、記録がほとんど残っていないため具体的な内容を知ることは難しい部分があります。

即位灌頂の成立・変遷

即位灌頂がいつから始まったのかは複数の説がありますが、後深草天皇の時代からの実施が明確になっています。特に、二条家が即位灌頂の中心的な役割を果たしていることは重要です。二条家初代の二条良実は、政治的に困難な時期に即位灌頂を始め、後の摂関家としての地位を確立しました。その後、数代の天皇に対して印明伝授を行い、この儀式が家業として定着していった結果、即位灌頂の重要性が強調されるようになりました。

即位灌頂の終息

江戸時代後期になると、国学の影響や仏教と神道の関係が問題視され、即位灌頂への反発が高まりました。1868年の明治天皇即位時には、儀式の神道儀礼化が進められ、即位灌頂は廃止されることが決定しました。

結論

即位灌頂は、天皇の即位式において非常に重要な役割を果たしていた儀式であり、その過程で歴史的かつ文化的な意義を有していました。一連の儀式は、宗教的な権威を持つ天皇の存在を確立する上で、特に神道と密教の交流を象徴するものとして理解されるべきでしょう。

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