厚木航空隊事件

厚木航空隊事件

厚木航空隊事件は、1945年8月15日、第二次世界大戦（大東亜戦争）終戦の日に、厚木海軍飛行場を拠点とする第三〇二海軍航空隊（302空）司令、小園安名大佐が起こした騒乱事件です。小園大佐は、日本の降伏を認めず、連合国軍との徹底抗戦を主張しました。

事件の経緯

1945年8月15日、玉音放送によって日本の降伏が国民に伝えられ、終戦となりました。小園大佐は、302空司令官を解任され、横須賀鎮守府付となることが決定していました。しかし、小園大佐は、国体護持を強く信じており、日本の降伏はソ連によって皇室が根絶やしにされ、日本が滅亡すると危惧していました。

また、小園大佐は、月光の斜銃装備や特攻反対などの自身の提案が却下され、敗戦を重ねた末に降伏を決めた海軍上層部に対して強い反感を抱いていました。小園大佐は、連合艦隊司令部と全艦隊に対し、「302空は降伏せず、以後指揮下より離脱する」と通達。さらに部隊に対して「日本は神国であり、降伏はない。国体に反する命令には絶対服さない」と訓示しました。

翌日、小園大佐は、軍用機を使い、「皇軍厳トシテ此処ニアリ」「重臣ノ世迷言ニ惑ワサルルコトナク我等ト共ニ戦へ」などと書かれた檄文を各地に撒いて、陸海軍や国民に徹底抗戦を呼びかけました。しかし、第三四三海軍航空隊飛行長の志賀淑雄少佐や筑波海軍航空隊飛行長の進藤三郎少佐らが302空の使者を一喝して追い返すなど、各航空隊からの支持を得ることはできませんでした。

また、302空によるフィリピンへ向かう軍使機（緑十字機）の撃墜も失敗に終わりました。海軍大臣の米内光政大将、第三航空艦隊司令長官の寺岡謹平中将、海軍大佐の高松宮宣仁王が小園大佐の説得にあたりましたが、小園大佐は納得しませんでした。

これにより、小園大佐は8月16日16時に解職され、山本栄・第七一航空戦隊司令官が302空司令を兼任することになりました。しかし、小園大佐は、8月16日以降、持病のマラリアが悪化して行動不能となり、8月21日に軍医によって麻酔で眠らされ、野比海軍病院（現在の国立病院機構久里浜医療センター）の精神病棟に監視下に置かれました。

それまで毎日戦闘機などを飛ばしていた302空は、8月20日に高松宮宣仁王の説得を受けた副長の菅原英雄中佐によって武装解除され、小園大佐が連行された21日には反対者も大半が鎮圧されました。しかし、若手を中心とした一部の抗戦派は、狭山飛行場（陸軍第三十九教育飛行隊）へ士官10名と下士官兵15名が、児玉飛行場（陸軍飛行第九十八戦隊）へ士官17名と下士官兵44名が向かいました。また、零戦に搭乗した改田義徳中尉は途中で東京湾へ飛び込んで死亡しています。

山本司令官によって、8月21日をもって302空は解散となりました。狭山飛行場へ向かった抗戦派は協力を得られずに22日に厚木へ帰投。児玉飛行場の抗戦派も、23日に厚木から派遣された恭順派によって全機のタイヤをパンクさせられ、戦闘不能に陥りました。飛行長の山田九七郎少佐は、この件の責任を痛感して24日に妻と共に服毒自決しました。8月25日には抗戦派の岩戸良治中尉が出頭し、26日には抗戦派全員が東京警備隊に拘束され、事件は終結しました。

小園大佐がマラリアに罹患した点について、小園大佐の長男は「マラリアではなく、軍が寝室に秋水の燃料補助剤をまいて錯乱状態にした」と主張しています。

事件後

1945年10月16日、横須賀鎮守府臨時軍法会議は、小園大佐に対し、党与抗命罪（海軍刑法56条）により「被告人ヲ無期禁錮ニ処ス」という判決を下しました。また、官籍剥奪も行われました。青年将校以下69名も4年から8年以下の禁錮刑に処せられました。

軍法会議法における「戦時事変に際し海軍部隊に特設された臨時軍法会議」であったため、弁護人はいませんでした。小園大佐らは横浜刑務所に収監されました。

1946年11月3日、日本国憲法の公布を機会として公布された大赦令第1条の赦免対象に海軍刑法の党与抗命罪も含められ、事件関係者は主犯である小園大佐を除いて赦免されました。小園大佐は無期禁錮から禁錮20年に減刑されました。1950年9月4日、特別上申により禁錮10年に減刑、同年12月5日に熊本刑務所を仮釈放されました。1952年、平和条約の発効に際し、政令107号の大赦令によって同年4月28日に赦免されました。

小園大佐は事件についての手記『最後の対米抵抗者』を残し、1960年に死去しました。

国会において、阿具根登、大橋敏雄らは、「この判決で小園大佐が海軍軍人としての一切の名誉を奪われて軍人恩給の支給対象から外れ、もともと恩給資格のない基地隊員60名も元受刑者として何らかの身分制限がつきまとったことは、ビラをまいただけであるのに対し理不尽、不公平」と主張しました。

終戦前後に抗命罪に値するものは、厚木航空隊だけではありませんでした。宮城事件で玉音放送用の録音盤の奪取ならびに放送の阻止を図った陸軍将校は、武力による実害が発生したにもかかわらず、自決した者以外は裁判もなされずに釈放されています。また、厚木と全く同様の抗戦を企てた者として、陸軍飛行第九十八戦隊（児玉飛行場）の宇木素道少佐、あるいは陸軍狭山基地の山田少佐、台湾の第一三二海軍航空隊がいました。

1974年に行われた恩給法の附則改正により、小園大佐の未亡人は遺族扶助料を受給できるようになりました。小坂徳三郎総務長官は「小園氏の名誉回復は今回の恩給法の改正によりまして、まず第一段階は到達されたというふうにわれわれは認識しております」と説明しました。しかし、その後の進展はありませんでした。

関連項目

宮城事件
川口放送所占拠事件
水戸教導航空通信師団事件
佐々木武雄 - 国民神風隊事件
愛宕山事件
松江騒擾事件
* 反乱

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