原博 (作曲家)

原 博

日本の作曲家、原博（1933年1月24日 - 2002年2月13日）は、独自の音楽世界を探求し続けた人物です。夫人の原嘉壽子も作曲家として知られています。

経歴

1957年に東京芸術大学を卒業し、池内友次郎に作曲を師事しました。翌1958年には日本音楽コンクールで第3位に入賞し、若くしてその才能を示しました。1961年からは活躍の場を海外に移し、フランスに渡ります。パリ国立高等音楽院ではシモーヌ・プレ＝コサードやジャン・リヴィエに師事し、さらにニースではアレクサンドル・チェレプニン、アンリ・デュティユーといった著名な作曲家からも教えを受けました。海外での研鑽は実を結び、1962年にはニース国際作曲コンクールで第1位を獲得する栄誉に輝きます。短期間イタリアのヴェネツィアに滞在した後、1964年3月に日本へ帰国。帰国後は作品発表会などを通じて、精力的な音楽活動を展開しました。その創作意欲は晩年まで衰えることなく、2002年に癌のため亡くなるまで作曲を続けました。

作風

原博の作風は、そのキャリアの中で明確な変遷を見せました。デビュー初期の作品、例えば「ピアノ協奏曲」などでは、新古典主義の潮流を継承することに重点が置かれていました。しかし、後に作曲された「ピアノのための24の前奏曲とフーガ」を境に、その方向性を大きく転換します。ここでは、バッハやモーツァルトといった古典の巨匠たちに深く傾倒し、彼らの様式を現代的な視点から再構築しようとするアプローチへと移行しました。

この古典回帰ともいえる手法は、当時の音楽界において論争を巻き起こしました。作曲家の柴田南雄は、これを純粋な創作とは見なさず「西洋音楽演習」と呼び、他の多くの作曲家からも個性の欠如を指摘され、嘲笑の対象となることもありました。しかし、一部の評論家は、「ソナタ第4番」や「トッカータ」といった作品の中に、あたかも古典派の時代に存在し得たであろう、しかし実際には書かれなかった「ありえたけれどなかった古典音楽」を見事に実現したと評価するようになりました。原自身は、自身の作曲技法について強い信念を持っており、音楽専門誌などに寄稿してその正当性を熱心に論じましたが、必ずしもその独自の創造性が広く認知されるまでには至りませんでした。晩年に作曲された「弦楽四重奏曲第9番ヘ長調」や「ピアノのための60のバガテル（抒情的小品集）」では、この古典への傾倒が一層深まっていることがうかがえます。

和声言語

原博の音楽における和声の特徴として、終止部に独特の響きを持つ和音を多用した点が挙げられます。これは、長三和音と短三和音を同時に含むような、ジャズのブルー・ノート・スケールにも通じる響きを持つ和音でした。また、「ピアノのための24の前奏曲とフーガ」においては、ピアニストにとって両手で同時に演奏することが困難なほど広い音域の和音を用いるなど、伝統的な鍵盤楽曲におけるフーガ作曲法とは一線を画した手法も見られました。これは、演奏上の制約よりも自身の追求する楽想を優先した結果と考えられます。

主な作品と著書

多岐にわたるジャンルで数多くの作品を残しました。代表作としては、「ヴァイオリン無伴奏ソナタ」（1959年）、「ピアノのための24の前奏曲とフーガ」（1981年）、「ピアノソナタ第4番」（1986年）などが挙げられます。吹奏楽の分野でも知られ、「マーチ『スタウト・アンド・シンプル』」（1986年）や「ミニシンフォニー 変ホ長調」（2002年）は、全日本吹奏楽コンクールの課題曲として委嘱され、多くの人に親しまれました。主要作品の一覧は、自身の著書『無視された聴衆』にも掲載されています。

音楽に関する著作も発表しています。『実力養成のための和声実習110課題集』（1991年）は、音楽教育の現場でも用いられる和声の練習問題集であり、『無視された聴衆―現代音楽の命運』（1996年）は、自身の音楽観や当時の現代音楽界に対する鋭い洞察を記した重要な著作です。

結び

原博は、アカデミズムの中で研鑽を積みながらも、既成概念にとらわれず、古典様式に深く根差した独自の音楽を追求しました。その作風は時に賛否を呼びましたが、日本の音楽史において独自の足跡を残した作曲家と言えるでしょう。

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