厩肥

厩肥（きゅうひ/うまやごえ）

厩肥とは、家畜の糞尿と、藁や落葉などの有機物を混合し、牛馬に踏ませることで腐熟させた有機質肥料のことです。主に牛や馬の糞尿が用いられますが、他の家畜の糞尿も利用されることがあります。

概要

厩肥の歴史は古く、その起源は家畜を飼育する中で自然発生的に生まれたと考えられます。元々は、厩（うまや）から出る大量の糞尿を有効活用するために作られたことに由来します。実際に、平安時代に編纂された『延喜式』には、馬寮で生成された厩肥を内膳司の園に転用することが規定されており、古くから肥料としての価値が認識されていたことが伺えます。

厩肥は、刈敷（かりしき）、堆肥（たいひ）と並んで、自給肥料の代表的な存在でした。特に中世後期には広く用いられるようになり、水田の二毛作の普及に大きく貢献しました。しかし、近世に入ると、家畜飼育が停滞する一方で、耕地の拡大によって秣場（まぐさば）が減少し、さらに干鰯（ほしか）や油粕（あぶらかす）などの購入肥料（金肥）が普及したことで、厩肥の利用は次第に衰退していきました。

しかし、経済的な理由で化学肥料の入手が難しく、入会地（いりあいち）が乏しかった平野部の中小農家では、近代以降も厩肥が利用され続けました。明治時代の農学者である酒匂常明は、その著書『日本肥料全書』の中で、厩肥を「肥料の三要素」と称される窒素、リン酸、カリウムを土壌中に補給し、その効果を持続させる上で有効な肥料であると述べています。

厩肥の特徴

厩肥の主な特徴は以下の通りです。

有機質肥料である: 化学肥料とは異なり、有機物を原料としているため、土壌の物理性や化学性を改善する効果があります。
緩効性である: 効果が比較的ゆっくりと現れるため、肥料効果が持続します。
多種類の養分を含む: 窒素、リン酸、カリウムの他にも、微量要素を含んでおり、作物の生育に必要な養分をバランスよく供給することができます。
微生物の活動を促進する: 土壌中の微生物の活動を活発にし、土壌環境を改善する効果があります。

厩肥の作り方

厩肥は、家畜の糞尿と藁や落葉などの有機物を混ぜて積み重ね、牛馬に踏ませることで腐熟させます。この腐熟の過程で、微生物の働きによって有機物が分解され、肥料成分が生成されます。腐熟期間は、気候や材料によって異なりますが、一般的には数ヶ月から半年程度かかります。

厩肥の利用方法

厩肥は、水田や畑に直接施用するほか、堆肥として利用されることもあります。施用量は、作物の種類や土壌の状態によって異なります。厩肥は、化学肥料と組み合わせて使用することで、より効果的な肥料効果を得ることができます。

厩肥の課題

近年、家畜の飼育頭数の減少や、化学肥料の普及に伴い、厩肥の利用は減少傾向にあります。しかし、土壌環境の保全や、持続可能な農業の観点から、その価値が見直されつつあります。

まとめ

厩肥は、古くから利用されてきた有機質肥料であり、土壌の肥沃度を向上させる効果があります。化学肥料に比べて即効性はありませんが、土壌環境を改善し、作物の品質を高める効果があります。持続可能な農業を目指す上で、厩肥の有効活用は重要な課題の一つと言えるでしょう。

参考文献

三橋時雄 「厩肥」『国史大辞典 4』 吉川弘文館、1984年、ISBN 4-642-00504-8、ISBN-13:978-4-642-00504-3。
田中耕司 「厩肥」『日本史大事典 2』 平凡社、1993年、ISBN 4-582-13102-6、ISBN-13:978-4-582-13102-4。
井奥成彦 「厩肥」『日本歴史大事典 1』 小学館、2000年、ISBN 4-09-523001-0、ISBN-13:978-4-09-523001-6。

外部リンク

『厩肥』 - コトバンク

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