受動免疫

受動免疫について

受動免疫とは、既存の抗体を他の個体に移行させることにより免疫を与えるプロセスです。通常、このプロセスは母親から胎児や新生児に自然に行われます。主に母親の血中の抗体が胎盤を通じて胎児に渡されることで、特に妊娠後期において免疫が育まれます。このプロセスには、自身の免疫系による抗体の生成を待つことなく、母体の抗体を介して即座の保護を得るメリットがあります。

受動免疫は、他にも人為的に誘導することが可能です。特定の病原体に対して高レベルの抗体を含む血液製剤を用いることで、感染の危険が高い時期や免疫応答が間に合わない場合に、この受動免疫療法が役立ちます。例えば、急性感染症の際に抗体を投与することにより、速やかな免疫保護を提供することが可能です。

自然獲得と母児免疫

自然獲得の一形態として知られる「母児免疫」は、母体から胎児や新生児へ抗体が供給されるプロセスを指します。この移行抗体は主に免疫グロブリンG（IgG）から成り、ほとんどの哺乳類では胎盤や初乳を通して伝わります。ヒトにおいては、FcRn受容体を介してIgGが胎盤を通過し、母体から胎児へと移行する仕組みになっています。

この母児免疫は、疾病に対する初期の防御を提供しますが、有効な保護が持続するのは通常1年までです。これは、新生児が自ら抗体を生成できるようになるまでの間に、細菌やウイルスからの感染から守る役割を果たします。また、初乳に含まれるIgA抗体も重要です。IgAは新生児の消化器系において局所的な防御を提供し、母乳育児が奨励されている理由の一部でもあります。このように、母体からの受動免疫は、産後数ヶ月にわたって 新生児を保護します。

人為的獲得

人為的に獲得される受動免疫は、健康なドナーの血漿や抗体を使用して誘導されます。この方法は、特に免疫不全の患者や急性感染症において迅速に免疫を提供する手段として採用されています.。主にヒトや動物の血漿を利用した高力価のIVIGやモノクローナル抗体があり、これらは病気の予防や治療に非常に有効です。しかし、この方法にはアレルギー反応や過敏症発現のリスクも伴います。

受動免疫の利点は、ワクチンと比較して素早く免疫を提供できる点です。数時間から数日内に効果を発揮することが多いですが、残念ながら身体に記憶を残すことはないため、同じ病原体に感染するリスクが続きます。そのため、継続的な免疫付与が求められる場合があります。

歴史と応用

受動免疫の基本的な概念は19世紀末から存在し、ジフテリアに対する抗毒素の発見がその発展を促しました。以降も抗体療法はさまざまな感染症の治療に利用されてきました。例えば、破傷風の治療において免疫を受けた馬の血清が使用されたことから、この技術が広まりました。特に、ワクチンの普及以前は、ジフテリアや破傷風に対する唯一の手段として位置づけられていました。

近年では、感染防止を目的とした免疫グロブリンの使用が一般化し、有名なエボラ出血熱の流行時には、回復した患者の血液を用いて治療が行われる例も見られました。

まとめ

受動免疫は、即時的な防御を提供する重要な手段ですが、その効果には限界があります。迅速に感染から守ることができる一方で、長期的な免疫保護を期待するには別の手段が必要です。これらの知識を普及し、受動免疫を適切に利用することが、病気予防や治療において重要です。

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