受胎告知 (ボッティチェッリ、フレスコ)

サンドロ・ボッティチェッリの『受胎告知』

サンドロ・ボッティチェッリによって1481年頃に制作されたフレスコ画『受胎告知』は、初期の傑作として知られています。この作品は、ボッティチェッリがシスティーナ礼拝堂の装飾事業のためにローマへ出発する前に、フィレンツェのサンタ・マリア・デッラ・スカーラ病院のロッジアのために描かれました。元々は壁画として存在していましたが、損傷が激しかったため、1920年に壁から剥がされ修復されました。現在はウフィツィ美術館に所蔵されています。

制作背景

サンタ・マリア・デッラ・スカーラ病院は、フィレンツェの羊毛組合によって設立されました。その後、シエーナのサンタ・マリア・デッラ・スカーラ病院の管理下に置かれました。ボッティチェッリの『受胎告知』は、病院のロッジアの壁面に描かれたもので、1478年からフィレンツェを襲ったペストの終息を感謝する意味合いがあったと考えられています。美術史家のジョヴァンニ・ポッジは、イノセンティ病院の記録文書から、この作品がボッティチェッリがローマへ出発する前の1481年に制作されたことを示す支払証明書を発見しました。ボッティチェッリは、この作品の制作に対し、10フローリン金貨を報酬として受け取ったとされています。

作品詳細

この作品では、大天使ガブリエルが、聖母マリアの寝室前の柱廊に舞い降りる様子が描かれています。ガブリエルは両腕を胸の前で交差させ、伝統的な白い百合を持っていますが、その衣服や長髪、百合の茎は、舞い降りた際の風によって激しく揺れています。一方、聖母マリアは天使の出現に気づき、書見台から降りて、オリエンタル風の絨毯の上にひざまずいています。聖霊を象徴する金色の光が、ガブリエルの背後から寝室のアーチ状の入口を通ってマリアの前まで届き、彼女の受胎を表現しています。

場面は、庭のあるルネサンス様式の宮殿を舞台としています。画面は、天使のいる左側の屋外と聖母マリアのいる右側の寝室の2つに大きく分割されています。両者を区切るのは、グリザイユ装飾が施された柱で構成された建築構造です。聖霊の光が通るアーチは、物語の連続性と統一性をもたらしていますが、空間的には統一されていません。

この構図は、壁画の下にある扉の位置関係も考慮して描かれています。扉は、天使が描かれている位置にあり、人々が扉を使う際に、壁画を正面から見上げるようになっています。また、画面中央の柱は、扉の右側にあった側柱アーチと連続して描かれています。

聖母マリアの後ろには、木製のベッドが置かれ、白いカーテンで覆われています。優美ながらも抑制の効いた家具は、ルネサンス期の宮廷で流行した家具やファッションの情報を伝えています。ボッティチェッリは、聖母マリアの純潔を象徴する赤い壁に囲まれた庭や、幼児キリストを宿した聖母マリアと契約の箱を覆った掛け布との類似性を示唆する書見台を囲む日よけなど、象徴的な要素を盛り込んでいます。

来歴

1531年、サンタ・マリア・デッラ・スカーラ病院は、フィレンツェ包囲戦で破壊されたサン・マルティーノ・アル・ムニョーネ修道院の修道女たちに譲渡され、サン・マルティーノ・アッラ・スカーラ修道院となりました。1623年には大規模な改修が行われ、作品が描かれていた空間は、ロッジアの柱の間を壁で塞ぐことで前室に変更され、ロッジアの上に聖歌隊席を設けるために、天井が低くされました。この改修時に、壁画の上部が覆い隠され、2つのリュネットになりましたが、壁画は可能な限り保存されました。

フレスコ画が再発見されたのは1910年で、非常に損傷した状態でした。1916年にジョヴァンニ・ポッジが、ボッティチェッリのフレスコ画に関する文書を公表。1920年には、ウフィツィ美術館の修復家ファブリツォ・ルカリーニによって壁から剥がされ、1957年にはレオネット・ティントーリによって支持体の交換が行われました。1972年の展覧会で作品の重要性が再認識され、ウフィツィ美術館1階で常設展示されるようになりました。2001年には、損傷が激しかったフレスコ画の上部と側面が再構築され、2016年10月からは、ボッティチェッリの作品を集めた第10展示室で展示されています。

ギャラリー

[画像1]

[画像2]

[画像3]

参考文献

バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』 、タッシェン（2001年）
『イタリア・ルネサンス 都市と宮廷の文化展』アントーニオ・バオルッチ、高梨光正、日本経済新聞社（2001年）

外部リンク

* ウフィツィ美術館公式サイト, サンドロ・ボッティチェッリ『受胎告知』

もう一度検索