受領功過定

受領功過定：平安時代の地方官人事評価制度

平安時代中期、地方官である受領の在任期間中の功績を審査する制度として「受領功過定（ずりょうこうかさだめ）」が存在しました。延喜15年（916年）に開始されたこの制度は、律令制の衰退と地方制度改革の中で、国司の成績を評価する必要性から生まれたものです。

制度の概要と評価基準

受領功過定は、受領が任期を終えた後、その在任中の業績を評価するものでした。律令制における考課制度を踏襲しつつも、受領国司のみを対象とし、正税や庸調・官物といった財政面を重視した点が特徴です。評価は在任期間（任中）に限定され、民政面での功績は軽視された傾向がありました。これは、当時の朝廷が財政難に苦しんでいたことと関係しており、徴税能力が評価の重要な要素となったと考えられます。

評価においては、主に以下の項目が重視されました。

調庸惣返抄（ちょうようそうへんしょう）、雑米惣返抄（ぞうまいそうへんしょう）、勘済税帳（かんさいぜいちょう）、封租抄（ふうそしょう）： これらは、庸・調・雑米・封租といった税の納入状況と領収書の発行状況を確認するものでした。朝廷への納税が滞りなく行われたかどうかが厳しく審査されました。
新委不動穀若干穀（しんいふどうこくじゃっかんこく）： 康保元年（964年）に追加された項目で、正税の主要部分を占める不動穀に関する租税徴収状況の報告です。正税運営の適正さが評価されました。
率分（りゅうぶん）： 天暦6年（952年）以降、諸国から徴収された正税の一部を中央に送る制度です。その送付状況が審査されました。
斎院禊祭料（さいいんみそぎさいりょう）： 斎院の祭祀費用に関する費用です。具体的な時期は不明ですが、960年代頃に評価項目に加えられました。
勘解由使大勘文（かんげゆしだいかんぶん）： 天慶8年（945年）以降、勘解由使が作成した正税・不動穀などの増減・欠損に関する報告書です。主計・主税寮の報告書と照合されました。

審査プロセスと結果

審査は、上卿を長とする陣定形式で行われました。受領は自身の功績を記した「功過申文」を提出、太政官は諸司から提出された報告書を勘文としてまとめました。これらの文書を精査し、参加した公卿全員一致で合格または「過」（咎あり）の判断が下されました。無過と判定された受領は、叙位で昇進する特典がありました。しかし、全員一致が必要なため、審査が長期化するケースも多くありました。源義家の例に見られるように、長期間官位の昇進が遅れることもありました。

制度の変遷と衰退

受領功過定は、摂関政治の全盛期である10世紀後半から11世紀初頭にかけて盛んに行われました。しかし、その後は次第にその重要性が低下していきました。その原因としては、以下の点が挙げられます。

公文勘済要件の緩和： 受領の不正行為などが厳しく問われなくなりました。
律令財政の形式化： 受領功過定の対象となる律令財政が形骸化し、実態を反映しなくなりました。
臨時収入の増加： 律令財政以外の臨時収入が増加し、受領功過定の対象外となったため、審査の対象範囲が小さくなりました。
権力者による人事介入： 摂関家や院の介入により、受領人事における恣意性が強まり、功過定の評価が形骸化しました。

これらの要因により、受領功過定は有名無実となり、平安時代末期にはほとんど行われなくなりました。この制度の衰退は、平安時代後期の政治・経済構造の変化を反映する重要な歴史的事実といえます。

参考文献

藤木邦彦「受領功過定」（『国史大辞典 8』）
大津透「受領功過定」（『日本史大事典 3』）
寺内浩「受領功過定」（『日本歴史大事典 2』）
玉井力「受領功過定」（『歴史学事典 12』）
寺内浩『受領制の研究』
* 中込律子『平安時代の税財政構造と受領』

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