古代エジプトの服飾

古代エジプトの服飾

古代エジプトの服飾は、紀元前3200年から紀元前341年までのエジプト周辺地域における服装を指します。酷暑の気候に適応した薄手のリネンが主な素材であり、シンプルなデザインが特徴でした。しかし、身分や職業によって装飾品や素材が異なり、社会階層を視覚的に示す役割も担っていました。

特徴

古代エジプトでは、少なくとも紀元前5000年頃から糸を紡ぐ技術が存在していました。ファイユーム湖畔で発見された世界最古の紡ぎ器は、その証拠です。リネンはナイル川流域で生産され、重要な輸出品でした。新王国時代には木綿が輸入され、栽培されるようになり、現在では名産品となっています。

暑い気候のため、薄手のリネンが主な衣服として用いられ、シンプルなものが多く見られました。男性は腰布、女性は胸から足首までを覆う筒型のワンピースを着用しました。神官や貴族、王族は、衣服の材質や形状よりも、身分や職業に応じた特別な装飾品を身につけることで、庶民と区別されました。

エジプト人は衛生面や体温の発散を考慮し、男性は髪を剃り上げ、女性は短く刈り込んでいました。高位の男性は、威儀を正すために鬘を着用しました。平民や奴隷は裸足でいることが多く、履物としてはパピルス製のサンダルが用いられました。王のサンダルは爪先が反り返った特別な形状で、王権の象徴でした。

エジプトでは、装飾品の制作が盛んでした。ファイアンス（陶器）のビーズをはじめ、宝石、貴金属、ガラス、七宝など、現代の装飾品に使われる材料の多くが用いられました。首飾り、腕輪、足輪などが作られ、頭飾りも非常に好まれました。

男子の衣装

男性の基本的な衣装は、腰帯の前に布を垂らした恥部覆いの上から、一枚の布を腰に巻きつけるというシンプルなものでした。赤銅色の皮膚は、エジプト人を近隣の民族と区別する象徴であり、肌を露出することはむしろ誇りでした。髪は剃り上げており、高温多湿な環境下でも衛生的でした。

一般庶民

庶民の男性は、ほぼ全時代を通して、シェンティという白い麻布を腰に巻いただけの姿でした。腰布は時代とともに徐々に長くなる傾向がありました。股間が露出しているのが一般的でした。髪型は剃り上げた頭か自然のままでした。新王国時代には、カラシリスと呼ばれる薄い木綿の衣服が伝わりましたが、高価な贅沢品であり、社会的地位の高い人々だけが着用できました。

上流階級

上流階級の衣装も腰布が基本でしたが、異民族の文化や輸入品の影響を受け、時代によって好みが変わっていました。古王国時代には、王や貴族も腰布をほぼ唯一の衣装としていましたが、上流の人物ほど布地を多く使い、丈を長くしたり、襞を取るなど、優雅な装いをしていました。高位の男性は首飾りを好み、宰相は女神マアトを象ったペンダントトップを身につけました。神官は豹の毛皮をまといましたが、羊や牛などの毛皮は不浄なものとして避けられていました。新王国時代になると、最高位の高官たちは、女性のワンピースのような独特な衣装を身につけるようになりました。高貴な男性は、肌を明るく見せる黄褐色や、肌の赤みを強調するオレンジ色の顔料で化粧をしていました。目の周りには、黒や灰色のアイラインを引いていました。また、エジプト男性は、妻や娘と同じくらい爪の手入れに関心を持っていました。

ファラオ

王の腰布は特別製で、細かく襞を取り、両端を丸く断ち落としたり、緑や黄色の縞柄のものを使用したり、黄金の三角形のプレートを提げるなど、臣下とは明らかに異なっていました。王は、クラフトという縞柄の頭巾や、上ナイルの支配者を表すヘジェト、下ナイルの支配者を表すデシェレト、二つの冠を重ねたセケムティなどの特別な被り物を着用しました。また、王の印として付け髭をつけました。

女子の服装

エジプトの女性は、早い時期からシースドレスと呼ばれる筒型のワンピースを身に着けていました。庶民の女性もアクセサリーを身につけ、化粧をしていました。エジプトでは、妻が自分の自由に使える財産を持っていることが多く、男性の所有物ではなく一個人として扱われたため、ギリシャの女性などに比べて、自由にファッションを楽しむことができました。

一般庶民

庶民の女性は、胸の間から両肩にかけて一本ないし二本の紐で吊る白いワンピースを主な衣料にしていました。細身のワンピースは、胸から足首までを覆うものでしたが、踊り子や奴隷娘は、恥部を覆う程度の前垂れのみをつけていました。祝祭には、ビーズで華やかに装うことができましたが、貴婦人のような豪華な飾りを手に入れることができない庶民は、ビーズを通した細紐やビーズに似せた組紐を腰に巻くだけで我慢しなければなりませんでした。子供は、髪の一部を結んで垂らして、他の部分は剃りあげる辮髪のような髪型をしていました。娘たちは、亜麻のリボンを頭に巻いて蝶結びにし、白や赤や水色のビーズの腕輪をしていました。新王国時代には、カラシリスと呼ばれる薄い木綿の衣服が伝わり、裕福な女性が好んで着用しました。比較的裕福な庶民ならば、お白粉や黛などを入手することもでき、太いアイラインを引いた独特の化粧をしていました。また、植物油で肌をマッサージして、砂や日差しから肌を守っていました。

上流階級

上流階級の衣装もワンピースドレスが基本でしたが、異民族の文化や輸入品の影響を受け、時代によって好みが変わっていました。古王国時代には、王妃や貴婦人もワンピースドレスをほぼ唯一の衣装としていましたが、上流の人物ほど布地を多く使い、襞を取るなど、優雅な装いをしていました。祝祭では、色鮮やかなビーズを糸に通したネット飾りにしたり、羽に似た細かい模様を裾などに染めるなどのおしゃれもしていました。新王国時代には、貴婦人たちは、近東地域から伝わった宝石のような色ガラスや透けるような布で作ったチュニックドレスやショールを身にまとうようになりました。新しい透けるドレスは「カラシリス」と呼ばれ、広いデコルテや胸の谷間からへその上まで見える魅惑的なネックラインに仕立てられており、深い組紐やリボンや縁飾り、刺繍やスパンコールなどで装飾されていました。鬘（かつら）にも流行があり、ボブヘアだけでなく、リボンでとめた髪を太く編んで両肩に下げるハトホル風の優美な鬘や、細い三編みを全体に垂らした髪型が人気を博しました。髪飾りは、花模様のヘアバンドの他にも、貴婦人だけが使える高価な香料を染み込ませた櫛などが人気でした。宝石でできた襟のような大きな首飾りは「ウェセク」や「メニト」と呼ばれ、貴婦人の必需品で陶器のビーズで華美に飾られていました。こうした首飾りはたいへん重量のあるものなので、首が前に倒れないように後ろに重りをつけていました。中王国時代になると、美しい色ガラスや宝石を飾ったエマイユの技術も加わり、首飾りや腕輪は男女を問わず用いられ、高貴な人々をより優雅に見せました。貴婦人たちは、上質なお白粉に加えて、アイラインや眉を引き、頬紅や口紅、宝石をすりつぶしたアイシャドー、ヘンナによるマニキュアなどによる化粧を楽しんでいました。3000年前の遺跡からは、動物性脂肪に香料入りの樹脂を少量加えたスキンクリームが発掘されています。古代エジプト女性のお白粉は黄褐色の顔料を水で練ったもので、赤銅色の肌を明るく見せる効果がありました。ヘンナの口紅や油分を加えてスティック状にした辰砂の頬紅も使われましたが、目元の化粧は特に重視されました。アイシャドーには、緑・空色・赤茶色・茶色などがありましたが、よく用いられたのは孔雀石のアイシャドーでした。

王妃

王妃の衣装は豪華でしたが、ファラオと異なり形状自体は特に特別なものではありませんでした。王妃の被り物は、天空の女主人と呼ばれる高貴な女神ムトの冠で、翼を広げた黄金のハゲワシが頭に覆いかぶさるような形状のものでした。第一王妃以外の王妃達は、ナイルの女神アンケトを象徴するガゼルを模した冠をかぶりました.

もう一度検索