古代ギリシアの服飾

古代ギリシアの服飾

古代ギリシアの服飾は、紀元前700年から紀元前146年頃のギリシア周辺地域で用いられた服装を指します。温暖な気候であったため、体に密着する衣服は避けられ、一枚布を体に巻き付けて着用するスタイルが主流でした。素材や着こなしに身分差が見られましたが、民主政治の発展とともに、材質以外での衣服による身分差は少なくなりました。

服飾の特徴

古代ギリシアでは、ウールが主要な衣服の材料でした。男女ともに一枚布を体に巻きつけ、ピンや帯で留めるというシンプルな着方でした。後に亜麻布が普及し、ウールは主に外套に使われるようになりました。絹は中国から輸入され、王族や貴族に珍重されました。民主政治の発展後は、衣服の素材以外での身分差はほとんどなくなりました。

髪型は、男子が短く、女子は長く伸ばして頭上で結い上げるのが一般的でした。化粧はあまり好まれなかったものの、売春婦は化粧をし、髪を染めることもありました。履物は柳の枝や革で作られたサンダルが主流でしたが、悲劇の役者は底の厚い深靴を履きました。貧しい人々や奴隷は裸足で過ごすことが多かったです。

装飾品は、金属細工の技術が高かったものの、控えめでした。金線細工による繊細な首飾りなどが作られ、青銅製のピンや革ベルトが使われました。

男子の衣装

男性は、初めは長方形のウール布を右肩を露出して体に巻きつけるエクソミスと呼ばれる着方をしました。身分の高い者は丈の長い衣装、運動量の多い者は短い衣装を着ました。

一般庶民

庶民の男性は、亜麻やウールの一枚布を左肩で留め、右肩を露出して着ました。外出時には、ヒマティオンやクラミードなどの外套を羽織りました。貧しい人はヒマティオン一枚で過ごすか、トリボーンという粗末な外套を着ました。亜麻のキトンは、女性と同じように両肩を留めて着ることもありました。色は自然なものが多く、縁に縞模様を織り出すこともありました。外套は比較的高級なものが多く、濃い色に染められていました。革製のベルトには青銅製のバックルが付き、肩を留めるピンには安全ピンのような覆いが付いていました。日除けにはペタソスという革製の帽子が使われました。

上流階級

上流階級の男性は、豪華な衣装を身につけました。ホメロスの「オデュッセイア」には、紫のヒマティオンや犬と鹿のレリーフが付いた黄金のピン、純白の衣が登場します。絹織物は、ギリシア人に大きなインパクトを与え、薄く織り直して使われました。富裕層は茜や大青だけでなく、高価なサフランや貝紫で服を染めました。ミント、菫、麝香草などの香料で肌を洗っていましたが、過度な奢侈を禁止する法令も出されました。

女子の衣装

女性の衣服は、かつてはドーリア人が持ち込んだウールの一枚布であるペプロスが主流でしたが、アルカイック期にはイオニア人によって亜麻のキトンがもたらされました。

一般庶民

庶民の女性は、亜麻の一枚布を襞を取って着ました。キトンにはドーリア式とイオニア式があり、ドーリア式は大きな筒状の布の上端を折り返して両肩をピンで留めるものでした。イオニア式は二枚の布を縫い合わせて着用し、ピンで留めることで袖があるように見せました。外出時には、ヒマティオンやクラミディオンなどの外套を羽織りました。スパルタでは、運動をするためにペプロスを短くたくし上げることもありました。胸帯や下腹に巻く帯も使用されていました。

上流階級

上流階級の女性は、彩り美しい衣装と凝ったヘアスタイルで下層階級と区別されていました。髪飾りには、髪紐やヘアネットが使われました。ヴェールが用いられることもあり、花嫁の盛装には純白のヴェールと花冠が使われました。宝石や羽毛も装飾に用いられました。紀元前4世紀頃から化粧が広まりましたが、欺瞞的であるとも考えられていました。白粉、口紅、頬紅などが用いられ、眉を黒く、アイシャドーやアイラインを施すこともありました。

関連項目

クラミス（クラミュス） - 古代ギリシアの男子が着たクローク

参考文献

丹野郁 編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社
リチャード・コーソン 著『メークアップの歴史　西洋化粧文化の流れ』ポーラ文化研究所
青木英夫『下着の流行史』雄山閣

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