アルカイック期

アルカイック期：古代ギリシアの変革期

アルカイック期は、古代ギリシア史において、紀元前8世紀からペルシア戦争（紀元前480年）までの期間を指します。暗黒時代と古典時代の間に位置し、この時代にギリシア社会は大きな変貌を遂げました。人口の爆発的な増加、ポリス（都市国家）の形成、そしてギリシア文化の基礎が築かれた重要な時代です。

アルカイック期の概要

アルカイック期は、政治、経済、外交、戦争、そして文化の発展が著しい時代であり、特に政治的・文化的な面で古典時代の基盤となりました。この時期に、ギリシア文字が考案され、最古のギリシア文学が生まれ、巨大な彫刻や赤絵式の壺が制作されました。また、重装歩兵がギリシア軍の中核を担うようになり、アテナイでは民主主義の初期制度が整えられました。

「アルカイック」という言葉は、ギリシア語の「古い」を意味する「archaios」に由来し、古典時代よりも前の時代を表します。この時代は、紀元前776年の古代オリンピックの基礎成立から、ペルシア戦争におけるクセルクセス1世の侵攻までとされます。

近年、アルカイック期は古典時代の前兆としてではなく、それ自体が重要な研究対象として認識されるようになりました。そのため、「アルカイック」という用語が持つ「旧式の」というニュアンスを嫌う研究者もいますが、代わる用語がないため、依然として広く使われています。

古典時代の歴史はトゥキディデスの『戦史』などの歴史書で知られていますが、アルカイック期については、文字資料が少なく、詩や碑文、墓碑銘などが主な情報源です。そのため、考古学的資料が重要な役割を果たしています。特に、アルカイック期の美術品は現存するものが多く、当時の文化を理解する上で不可欠です。

さらに、ヘロドトスなどの古代ギリシアの著作家による伝説も重要な情報源ですが、それらは現代の歴史とは異なり、必ずしも事実に基づいているとは限りません。

政治の発展

アルカイック期には、ポリスが政治組織の主要な単位として発展しました。多くの都市が「僭主」と呼ばれる独裁的な指導者によって統治されました。この時代は、法や社会的な意思決定の制度が整えられた時代でもあり、最古の法律や立法組織の形跡が残されています。

特に、アテナイとスパルタの体制は、アルカイック期の終わりまでに古典期と同様の様態にまで発展しました。アテナイでは、ソロンによる改革で民主主義の基礎が築かれ、クレイステネスによって古典期のアテナイ民主主義へと発展しました。スパルタでは、リュクルゴスの改革により、メッセニアを支配下に置き、ペロポネソス同盟を形成しました。

ポリスの発展

アルカイック期には都市化が進み、ポリスの概念も古典期と同様のものに近づいていきました。紀元前8世紀には、複数の小さな村落が合併して一つの都市になる「シュノイキスモス」と呼ばれる現象が起こりました。この合併は、人口増加に対応するために新しい政治組織が必要になった結果と考えられています。

アテナイ

紀元前6世紀後期まで、アテナイは古代ギリシアを率いるほどの力を持っていませんでしたが、文化的にも政治的にも優位を誇っていました。

紀元前636年頃に、キュロンによる政変の試みがあり、アテナイの君主政治は終わりを迎えました。その後、アルコンが行政の重要な役職になり、貴族のみがその職に就くことができました。

紀元前621年または620年には、ドラコンによって最古の法律が制定されました。この法典は、個人的な復讐を禁止し、法による裁きを優先するものでしたが、貧富の差を解決することはできませんでした。

紀元前594年または593年には、ソロンがアルコンと調停者となり、改革を行いました。ソロンは、債務奴隷を廃止し、市民権を獲得できる者を制限しました。また、収入によって政治参加を可能にし、貧富の差を緩和しようとしました。

スパルタ

スパルタの国制は、紀元前8世紀には古典期と同様の様態になっていました。第一次メッセニア戦争以降、長老会の力が民会を上回り、メッセニア人はヘイロタイとして使役されました。また、王の権限を制限するエフォロイが力を増しました。

植民

紀元前8世紀と7世紀には、ギリシア人は地中海、マルマラ海、黒海方面に関心を広げ、植民地を建設しました。これらの植民地は、母体の都市に依存せず、それぞれ独立した都市として発展しました。

植民地には、独立した都市と、貿易のための商業都市の2種類がありました。最初期の植民地はシチリア島に建設され、その後、南イタリアに拡大しました。紀元前7世紀には、マルセイユからエーゲ海北部、黒海に至るまで植民地が建設されました。

僭主政治

紀元前7世紀中ごろ以降のアルカイック期は「僭主時代」と呼ばれることもあります。最初の僭主は、紀元前655年にクーデターで実権を握ったキュプセロスです。僭主の台頭には、民衆の支持があったとする説もありますが、現代では、私的な軍隊を持つ個人が実権を握ったとする説も有力です。

僭主という言葉は、当初は単に「王」を意味する言葉でしたが、後に否定的な意味を持つようになりました。アルカイック期の僭主は、必ずしも苛政を敷いたわけではなく、同時代の他の統治者と区別されない存在だったとする研究者もいます。

人口

紀元前850年から750年頃には気候変動があり、地中海世界は涼しく湿潤になりました。その結果、ギリシアの人口は紀元前8世紀に倍増しました。当時の住居の大きさからは、貧富の差が拡大していたことがわかります。その後、紀元前7世紀の終盤には、平均的な広さの家屋が密集して建てられるようになりました。

経済

農作・畜産

アルカイック期には、未開墾の土地が多く残されていました。耕作地は小さく、居住区の近くに集中していました。作物は多様で、豆果と穀物の輪作が行われました。小作人たちは、ブドウ、オリーブ、果物や野菜を育てて販売しました。

家畜では、羊と山羊が重要で、肉、乳、毛、そして堆肥を生産しました。牛は維持費がかかりましたが、畜産物を増加させることができました。馬や牛の群れは、莫大な富の象徴でした。

この時代には、鉄器と厩肥の使用が増加しましたが、農業技術に大きな革新はみられませんでした。

ヘシオドスの『仕事と日々』からは、土地所有者が労働者にわずかな報酬しか与えなかったことがわかります。生産物の多くは販売され、奴隷が労働に従事していました。また、賃金を求めて働く小作人や借金のために働く人もいました。

貿易

紀元前8世紀後期には、ギリシアはエーゲ海周辺の貿易網に組み込まれました。オリエント世界からの影響を受け、コリントスは南イタリアやシチリア島との交易を盛んに行いました。東方との交易は、アイギナ島などのギリシアの島々が仲介しました。

紀元前6世紀までには、ギリシアは地中海世界を網羅する貿易網に取り込まれました。ラコニアの壺が、マルセイユからカルタゴ、クレタ島、サルディスまで、広い範囲で発見されています。

鋳造硬貨

アルカイック期の初頭には、鋳造硬貨はまだありませんでした。ギリシア人は、牛や鼎などを基準に物の価値を測っていました。紀元前6世紀初頭には、貴金属の延べ棒が交換手段として使用され、主に銀が使われました。

鋳造硬貨は、紀元前650年頃にリュディアで発案されました。ギリシアの共同体でもすぐに採用され、アイギナ島では独自の「亀」の硬貨が発行されました。その後、アテナイ、コリントス、キュクラデス諸島、南イタリア、シチリア島、トラキアにも広まりました。

硬貨の図柄は、当初は頻繁に変更されましたが、次第にそれぞれの共同体が固有の図柄を使用するようになりました。硬貨の利用は、交易の簡便化、報酬の支払い、共同体への寄付を容易にするという利点がありました。

美術

アルカイック期の美術は、象徴的な様式から自然な様式への過渡期とされます。エジプトやメソポタミアの巨大な彫像の影響を受け、陶芸では幾何学文様から赤絵式へと変化しました。この時代には、ギリシア文字の発達と最古のギリシア詩が生まれています。

彫刻

ギリシアでは、等身大の人間の石像が作られ始めました。最も有名なのはクーロスとコレーと呼ばれる若い男性と女性の像です。これらの像は、宗教施設や墓地などに奉納されました。紀元前6世紀には、アッティカ地方のクーロスはより自然で生き生きとしたものに変化しましたが、紀元前480年頃には作られなくなりました。

壺絵

ギリシアの陶器の装飾は、抽象的なものから形象的な様式へと変化しました。紀元前8世紀には、幾何学文様から東方化様式へと発展し、紀元前7世紀初頭には、コリントスで黒絵式が考案されました。アルカイック期の末期には、アテナイで赤絵式が考案されました。

文学

現存する最古のギリシア文学はアルカイック期のもので、『イリアス』と『オデュッセイア』は紀元前7世紀に成立したとされます。叙事詩だけでなく、抒情詩も一般的になり、９歌唱詩人も活躍しました。また、初期のエレゲイアやイアンボスも残っています。この時代には、ギリシア演劇の最初の形跡も見られます。

ギリシア文字は紀元前8世紀にセム人のアルファベットに由来して考案されましたが、紀元前4世紀まで規範化されることはありませんでした。最古のギリシア文字が刻まれたものは、紀元前8世紀中ごろのもので、韻文で書かれていることが多いですが、散文で書かれた例もあります。

軍事的発展

アルカイック期には、重装歩兵が採用され、ギリシアの主要な戦力となりました。重装歩兵の甲冑は紀元前8世紀頃から見られ、紀元前7世紀半ばにはファランクス戦術が普及しました。海戦では、三段櫂船が発案され、紀元前7世紀半ばにコリントスが最初に採用しました。

まとめ

アルカイック期は、古代ギリシアが大きく変革した時代です。ポリスの形成、民主主義の基礎、文学、美術、軍事技術の発展など、古典時代の基盤を築きました。この時代の研究は、古代ギリシア文明を理解する上で不可欠であり、現代社会にも多くの示唆を与えてくれます。

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