古天明平蜘蛛

古天明平蜘蛛（こてんみょうひらぐも）

概要

古天明平蜘蛛は、戦国時代の武将、松永久秀が所持していたと伝えられる茶釜です。その名の由来は、蜘蛛が地面に這いつくばるような独特の形状にあります。この茶釜は、単なる茶道具としてだけでなく、久秀の波乱に満ちた生涯や、彼の最期を象徴する存在として、後世に語り継がれてきました。

歴史

松永久秀は、織田信長に臣従した際、名物として名高い「九十九髪茄子」を献上しましたが、信長が度々所望した平蜘蛛は、頑なに拒み続けました。その後、久秀は信長に反旗を翻し、信貴山城で自害することになります（信貴山城の戦い）。

この際、平蜘蛛がどのように扱われたかについては、複数の説が存在します。

『山上宗二記』の記述: 平蜘蛛は、信貴山城落城の際に失われたとされています。
『大かうさまくんきのうち』の記述: 太田牛一の著書によれば、久秀自身が平蜘蛛を打ち砕いたとされています。
『松屋名物集』の記述: 多羅尾光信が、落城した信貴山城から平蜘蛛の破片を集め、復元したと記されています。また、津田宗及の『天王寺屋津田宗及茶湯日記他会記』には、天正8年（1580年）に、多羅尾綱知が「平くも釜」を使用したという記述があります。
江戸時代の軍記物: 『川角太閤記』や『老人雑話』では、久秀の首と平蜘蛛が鉄砲の火薬によって爆砕されたとされています。この説は、享保年間の『茶窓閒話』にも引き継がれています。『川角太閤記』では、久秀が「平蜘蛛の釜と自分の首は信長に見せるな」と命令したという記述があります。
浜名湖舘山寺美術博物館の所蔵品: 2018年まで存在した浜名湖舘山寺美術博物館は、「平蜘蛛釜」と伝わる茶釜を所蔵していました。この茶釜は、信貴山城跡の発掘の際に出土したもので、信長の手に渡り愛用されたと伝えられています。
柳生家の家譜『玉栄拾遺』: 久秀と親交のあった柳生家の家譜には、久秀が打ち砕いた平蜘蛛は偽物で、本物は友人の柳生松吟庵に譲ったという記述があります。

フィクション作品における平蜘蛛

江戸時代の浮世絵では、久秀が平蜘蛛釜を打ち壊し、切腹する様子がよく描かれていました。第二次世界大戦以降には、久秀が自爆するために爆薬を仕込み、平蜘蛛とともに爆散するという描写も見られるようになりました。中山義秀は、1963年から1964年にかけて執筆した小説『咲庵』の中で、久秀が平蜘蛛とともに爆死する場面を描いています。この小説では、『信長公記』を典拠としていますが、実際には『信長公記』に平蜘蛛に関する記述はありません。

備考

茶釜の発生は、芦屋釜（九州）と天明釜（東国）の2つの流れに大別されます。「古天明」という名称から、この茶釜は下野国天明（現在の栃木県佐野市）で製作されたと考えられます。

「古天明」とは、正長年間（1428年 - 1429年）から天文年間（1532年 - 1555年）までの時期を指し、それ以降のものを「後天明」と称します。

まとめ

古天明平蜘蛛は、その独特な形状と、松永久秀の生涯を彩る様々な逸話によって、単なる茶道具を超えた特別な存在となっています。歴史的な記録や、後世のフィクション作品の中で語り継がれることにより、多くの人々に知られるようになりました。平蜘蛛の真実の姿は謎に包まれていますが、その魅力は今もなお色褪せることはありません。

参考文献

仁木宏・中井均・中西裕樹・摂河泉地域文化研究所編『飯盛山城と三好長慶』（戎光祥出版、2015年）
天野忠幸『松永久秀と下剋上 室町の身分秩序を覆す』平凡社〈中世から近世へ〉、2018年。ISBN 978-4-582-47739-9。
* 渡邊大門 (2021年1月16日). “【深掘り「麒麟がくる」】松永久秀のわなは創作　平蜘蛛の茶釜と史上初の爆死、真相は”. Yahoo!ニュース. Yahoo! Japan. 2021年2月14日閲覧。

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