台中丸

台中丸（たいちゅうまる）

台中丸は、1897年に進水した大阪商船所属の貨客船です。日露戦争中には日本海軍に徴用され、仮装巡洋艦として特務艦隊の旗艦を務めました。しかし、大東亜戦争中の1944年4月、奄美大島沖でアメリカ海軍潜水艦の攻撃を受け沈没し、160名以上の民間人が犠牲となる悲劇に見舞われました（台中丸遭難事件）。対馬丸などと並び、沖縄戦関連の遭難船舶として知られています。

建造

台中丸は、大阪商船が台湾航路向けに計画した貨客船として、同型船2隻と共にイギリスのジェームス・レイン造船所に発注されました。1897年6月1日に進水し「台中丸」と命名され、竣工後に日本へ回航されました。同型船の「台北丸」と「台南丸」も同様に竣工しましたが、「台北丸」は回航途中にリスボン付近で沈没してしまいました。

総トン数は3300トン余り。三連成レシプロ機関1基とスクリュー1軸を備え、航海速力13ノットを発揮。当時の日本の商船としては最優秀の高速船でした。

運用

台湾命令航路

日本に到着した台中丸は、台湾総督府による命令航路である神戸港＝門司港＝長崎港＝基隆港線に就航しました。姉妹船の「台南丸」や「台北丸」の代船である「福岡丸」も同航路に就航し、月に3便の定期運行が行われました。日本陸軍の海上輸送拠点であった宇品にも必要に応じて寄港する定めとなっており、台中丸も1898年3月10日に神戸港を出港後、宇品に立ち寄って陸軍部隊を収容した記録が残っています。

日露戦争

1904年初頭に日露戦争が近づくと、台中丸は1月11日に仮装巡洋艦と定められ、翌日には日本海軍との傭船契約が結ばれて呉軍港へ回航されました。1月13日から22日にかけて改装工事が行われ、安式12拇速射砲や重47mm速射砲などの兵器や通信設備が装備されました。船室が広く居住性は良好だったとされています。姉妹船の「台南丸」も同様に徴用されました。

1904年2月6日、連合艦隊は対露開戦に備えて佐世保軍港から続々と出撃し、台中丸もこれに加わりました。翌2月7日、日本艦隊は朝鮮半島沿岸で作戦行動中、沖合でロシア商船「ロシア」を発見し拿捕。「台中丸」は「龍田」から「ロシア」を引き取り、佐世保まで曳航しました。

開戦後、台中丸は戦時艦隊集合地港務部の乗艦として使用され、旅順攻囲戦の間は朝鮮半島の八口浦や山東半島沖の裏長山列島錨地に停泊し、艦船や海軍陸戦隊への補給、郵便物の受渡しなどの通信業務、根拠地の整備作業の母艦として活動しました。

旅順陥落後、台中丸は前進根拠地における港務部の任務を大連防備隊へ引き継ぎ佐世保へ帰還。追加改装工事を経て、新設された特務艦隊の旗艦として、また艦隊附属港務部の乗艦として使用されることになり、鎮海湾に進出。補給業務や附属仮装砲艦の母艦任務などに従事しました。日本海海戦時には各地の海軍望楼と前線艦船の通信を中継して大本営に戦況情報を逐次送りました。

商用航路復帰

1905年12月に徴用解除となった台中丸は、台湾航路へ復帰しました。その後、大連港行き命令航路、神戸港＝清津港・雄基港間の朝鮮北部航路、大阪港＝那覇港間の沖縄航路などへ適宜移籍しました。

商船として運行を続ける一方、シベリア出兵の際には陸軍に徴用され、部隊や避難民の輸送に従事。1928年の山東出兵の際にも陸軍に徴用されています。

1936年には解体される予定でしたが、国際情勢の悪化により船腹不足が懸念されたため、解体が取り消されました。

太平洋戦争勃発後も、台中丸はすぐに徴用を受けることはなく商業航海を続けていましたが、1943年3月に陸軍に徴用され沖縄・台湾方面での輸送任務に従事。1944年4月に徴用解除となり、鹿児島港＝那覇港間の商業航路に就航することになりました。

台中丸遭難事件

商業航路に復帰した台中丸は、鹿児島から那覇へ向かう護送船団、鹿004船団に加入しました。1944年4月12日午前2時5分頃、奄美大島西方でアメリカ潜水艦「ハリバット」の雷撃を受けました。魚雷は船体に命中し、船体は切断され、最初の被雷から約3分という短時間で沈没しました。

遭難時、台中丸には定員を大幅に超える250人の乗客が乗っており、多くが犠牲となりました。犠牲者の中には親子連れも含まれていました。

台中丸の遭難は、対馬丸などと並んで沖縄戦関連の戦没船事例として取り上げられています。那覇市には慰霊碑が建立され、犠牲者の名前が刻まれています。

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